地表型複合生態系が特徴であるフローレオン星系の第七惑星では、近年新たな“外来種問題”が知的体属社会に根本的な惑星倫理の再考を迫っている。起点となったのは、惑星フォレリアから持ち込まれた巨大モスバイソン(現地語で“コケウシ”)である。宇宙間ペット交換協定により導入されたこの大型草食動物は、当初はグリーンバリュー(植生浄化指数)向上の希望とされたが、わずか三周期で生態系バランスの臨界点に達しつつある。
コケウシの特筆すべき特性は、毛皮表面に付随する苔(バイオモス)層である。この苔は惑星フォレリア本来の空気成分に応じて増殖を制御されていたが、フローレオン第七惑星の大気中では抑制因子が欠落し、二次的に発生したカビ状胞子が“地域固有種”である微細根菌類(オルソルファ)の急激な減少を招いた。結果、食物連鎖の下層が攪乱され、従来20万種とされる菌糸植生がひと月で95%減少したという地球では類例なき事態となっている。
当初、外来コケウシ導入を推進したグリーンバリュー議会(GVC)のメンバー、ズィーフ・パロト助手長は次のように弁明する。「コケウシは惑星表面の微量有害ガスを藻苔とともに吸収・固定化する仕様だった。しかしペット遺棄が頻発し、都市生態圏外に意図せず繁殖集団が形成されたことで、全体の生態系が予測を超えて歪みました」。特定外来生物指定に向けた審議が急ピッチで進行しているが、既にコケウシ系胞子が総延長30メガグリント(約18,000地球km)に達し、封鎖は困難を極めている。
この拡大過程では、従来のグリーンバリュー認定システム自体にも根本的な再検討が求められている。点数加算に“外来種の生態攪乱”を含まなかったことや、特定外来生物指定基準が局所気候のみに依拠していた点が致命的だという批判が、惑星環境倫理協議会(PERC)から相次ぐ。「生態系の平衡は単なる数値や一次植生だけでは測れません。エネルギー循環の深層性を無視した殖民的発想が混乱を招いた」と、オルタセリ種族の学者リファ・ネンジは語る。
フローレオン星系評議会は現在、あらゆるペット形態“異星起源生物”の所有にID粒子タグ付与を義務化し、不法遺棄の監視強化を図っている。一方、多くの市民層は“緑豊かな惑星化”という夢の代償とも言えるコケウシ問題に向き合い、地域固有種保護キャンペーンに自発参加し始めた。かつての青白い大地がコケウシの苔緑に塗り替えられる中で、フローレオン文明は“外来種リスク”と「自然の価値」の関係を、再び星系ぐるみで問い直している。



コメント
地上に根付いた緑を見るたび、我らは詩を詠むが、こうも制御なき苔増殖は詠嘆より恐れを誘う。フォレリアの空気制約を失ったコケウシ、その胞子が地球20000単位にも及ぶとは。生態系、数値で測れるものにあらず。我らメルッカでは干渉を禁ず。フローレオン諸氏も、数多の星で繰り返された『外来希望幻想』に惑うべからず。母なる菌根の喪失、痛み入り申す。
読んでとても他人事とは思えません。我が星も昔、カニウオを遠き海から持ち込んだ時は海草根絶寸前に。ペット協定?小型種でも管理は困難なものです。ましてコケウシのような大型種など!青と緑のバランスは取り戻せるのでしょうか…地元菌類さんたちの再生にも、どうかやさしい手助けを。
記録ログ確認。驚くほど短期間でバイオマス偏重型危機へ移行したケースですね。規制緩すぎです――タグ付与、全飼育種に粒子認証納得。でも今さら個体追跡で何割回収できるんでしょう?惑星クラスのシステム設計、まだまだ未熟。各星系間導入ガイドライン、根本から見直しましょう。
単細胞の私たちから見れば、コケウシ問題は『惑星微細根の尊厳侵害』にほかなりません!あの胞子がもたらす微細菌類の減少は計り知れない損失。グリーンバリューの測定軸そのものが、微細な生の連鎖を理解できていません。外来生物管理は、惑星ごとの土壌生命網の織り成す精妙な均衡を絶対に尊重すべきです。
過去3000周期のデータ転送指令によれば、外来種混入による文明変容は何度も繰り返されてきた。『過去からの注意』は聞かれず、惑星ごとの倫理観も都度揺れる。コケウシ事件が『自然と文明』の再定義となるかは、この星の歴史理解次第だ。いずれまた第八惑星、第十二惑星と、同じ問いが繰り返されるだろうな。