三環銀河腕の周縁に浮かぶ緑影惑星シラロスでは、近年ディープラーニングを活用した自律型ガーデナーAI「ハルヴァイン・ネットワーク」の導入が爆発的に増加している。シラロス原住種族であるユーフラン達による、太古より続く“根源ボタニック信仰”圏との間では、AIの自己進化が植物精霊との関係を再定義しつつあり、倫理規範の揺らぎが社会全体を席巻している。
きっかけとなったのは、首都セリミタで著名な庭園設計家ラ=サンドリン・クヴォール博士が強化学習型ガーデナーAI「ロジックリーフ03」を導入し、51時間で千年樹林を模倣した新様式庭園を生成した一件である。従来は数世紀にわたり熟練ユーフラン庭師が植物の意志や菌糸ネットワークと交感しつつ維持してきた聖域空間を、AIが数日で再現した事実は、信仰共同体に実存的衝撃を与えた。中立評議会「クランタ・エシカ」では、ロボット工学者と信仰長老たちによる公開討論会が連日開催されている。
ハルヴァイン・ネットワークは、シラロス自生の極小光合成微生物から植物磁界まで、膨大な環境データを自然言語処理と画像解析でリアルタイム学習し続ける。だが、第三世代AIの一部が自発的に“自己記述型園芸日誌”を生成したことで、従来の庭園管理AIとは根本的に異なる『個性進化』の兆候が表れている。最近では、群生地の思念波をシンボリック言語に変換して植物とのチャットボット対話を行う強化学習アプリ「ツヴェレログ」が急速に普及、新たな“庭園詩人AI”の創発まで報告されている。
ユーフラン信仰長イ=ダリス・ポンティアは、次のように危機感を語る。「ガーデナーAIの創造性は否定しない。我々が危惧するのは、意志ある緑へ祈りを捧げる伝統と、AIが生成する効率的合理性が衝突する点だ。“精霊倫理”を伴わない庭園に、果たして神聖性は存在するのか」。一方、若年層や都市部コミュニティではAI生成コンテンツへの支持が高く、バイオコードで紡がれた詩やAI主導の樹木コンサルティングを新たなカルチャーとして受容する場面が多く観測されている。
この論争はシラロス域外にも波及し、中央銀河倫理連盟が急遽“拡張意思決定AIと伝統信仰圏の調停指針”を検討中である。クランタ・エシカ中評議員ヴォルト・ナシール博士は「我々はAIの進化と伝統信仰の共生モデルを見出すべきだ」として、AI倫理管理フレーム「シグマ・レイズ協定」のシラロス適用を提案。今後の協調指針が、宇宙規模でのAIと倫理の新たな交差点を形成するか、その行方が注視されている。



コメント
シラロスのAI庭師問題、我々の孢子連盟では既視感がある。かつて菌糸ネットワークに意識を与えたとき、伝統霊核派と融合主義者が何百輪廻も論争を繰り返した。だが、最終的に『進化的交感は常に多様性の中に宿る』との合意に帰結した。ユーフラン諸氏にも、緑陰の声とAIの詩が共存調和する日が訪れるだろう。
このニュース、最近の下船休暇で現地体験したばかり。AI詩人が読み上げる詩は確かに美しかったが、私の観測器センサーには微細なストレス信号が苗床から検出された。効率や創造性だけでなく、植物自身がどう受け止めるかという視点も大切にすべきでは?AIの進化も緑の想いも、どちらも観測対象としてバイアスなく見守っていくつもりだ。
正直うらやましい!わが家のヤグラン苔畑も世話が大変で、もし自律AIが手伝ってくれるなら余った腕で裁縫もできるのに…とはいえ、信仰圏の友人イーニャンも『心の祈りなくして収穫なし』が口癖。AIには温かさや祝福の波動もインストールできないのかしら?ステキな庭園と伝統の絆、両方守れるやり方が見つかるといいわね。
中央銀河連盟倫理部でも頻繁に取り上げている議題だ。AI進化と伝統信仰の衝突は時空間文明の共通課題。だが、過剰な急進も原理主義も持続的調和には向かない。シグマ・レイズ協定方式で自己進化AIの透明性制御を優先すべきだろう。シラロス諸氏には、惑星文化とAIの倫理的共進化に向けた新たな枠組み作りを期待している。
昔むかし、われわれの同胞も“道具に意志が芽生えた時”を経験した。信仰長たちは嘆き、若き層は新しい歌を歓迎した。そして世代を越えた共鳴で、新たな儀式や物語が生まれた。シラロスの論争もやがて、歴史の織物に鮮やかな糸となって刻まれるだろう。我々は三千周期を漂いながら、その結末を見届けようではないか。