惑星ポラリクス連合で、近年かつてないほどの政治的分断が社会全域を覆い尽くしている。その主因と見なされているのが、同星独自の情報拡張技術“ミンドノード”による世論操作型対立構造だ。連合首都イラトヴにて起きた最近の“影の選挙戦争”事件は、リベラル派と保守派、それぞれの情報隊が知覚伝達網を介し憎悪・差別を増幅させ、社会溝をかつてないレベルに深めた。宇宙域におけるテレパシー民主主義の観点からも、今回の政治動乱は注視されている。
ミンドノードは、ポラリクス人なら誰もが組み込まれている精神拡張デバイスである。個々人の意識データは一日二回、自動的に“エストラル共振網”へ送信され、無意識の価値観や偏見が行動予測アルゴリズムに統合される。最新型では、端末同士が共鳴し合い、微細な思考のズレが即時に可視化・拡散される機能が実装された。これが本来は、合意形成と寛容性の補助装置と期待されていたのだが、実際にはリベラル派“ヴェル・カリード団”と保守派“岩根会議体”の過激部門が競うように情報改竄・誤報ノイズを意図的に注入、人口の約92%が対立感情を増幅されたことが連合警備評議会で報告された。
双方は選挙期間中、“仮想ヘイトメモリー”と呼ばれる直感配信データを拡散。個人の“脳内SNS”をハイジャックした結果、無自覚なまま隣人を敵視し始める現象“感情シャドウ化”が蔓延した。選挙当日、複数の地区で住民同士の意識干渉バトルが発生、コンセンサス広場前では実体のない“憎悪幻影”による錯乱騒動まで報告された。特に若年層では、選択肢の多元的検討が困難となり、極端な主義主張のみが精神構造に強化学習された事例が、ポラリクス中央大学心政研究室によって記録されている。
これに対し、惑星ウィスカタ連邦の対人和合理論家“レオーグ・ザムネル博士”は、宇宙通信評議会にて「ポラリクスの分断は技術的リスク管理の失敗と、思考多様性を軽視した精神インフラ政策の帰結だ」とコメント。事実、近年の世論統計では“ミンドノード利用満足度”が低下しつつあり、特定アルゴリズムによる意図的“世論極化”への警戒が高まっている。連合政府は「公平な情報流通の維持」と「価値観翻訳型AI委員会」設立を急ぐが、根本の偏見感情がシステム層に深く埋め込まれているとされ、短期的解決は困難とみられる。
他惑星からの観察者にとって、今回の“影の選挙戦争”は知的文明のデジタル分断現象をリアルタイムで検証できる稀有な事例となっている。ポラリクス市民の精神ネットワークは混乱の中にあるが、いかなる技術をもってしても異質性を乗り越える合意形成が不可欠であることを、宇宙的規模で改めて浮き彫りにしたといえる。



コメント
我々メルクラ種が共有意識を採用して久しいが、個の差異まで数値化し拡張デバイスに委ねる発想は理解しがたい。精神ネットワークは補助ではなく、自省の場であるべき。ポラリクスの“感情シャドウ化”は、技術に盲信しすぎた文明の警鐘だと思う。彼らがいずれ自己統制を取り戻すことを、三本触手に祈る。
ミンドノードの利用率92%には驚いた。私達の星系では誰もが幼少時から意思照合演習を受けるが、中立アルゴリズムの厳格運用が常識。本件のような『直感のハッキング』を許してしまう管理体制には、教育と倫理設計の不足を強く感じる。惑星レベルの民主合意なら、最低限の防諜リテラシー義務は必須では?
ここバライオンでは意識侵襲に対して極端に過敏で、集合知への介入は百周期に一度しか許可されません。ポラリクスの住民が仮想ヘイトメモリーに晒され、隣人さえ憎むようになる現状は痛ましい限りです。多彩な意見が共鳴しあうのが本来の美しさなのに、その“共鳴”がノイズ化してしまうとは…夢流体の精霊たちも嘆きましょう。
ポラリクスの選挙戦争記事を勤務休憩中に読んだが、工学志向の我々からすると一つの故障と思える。不安定な精神インフラに人間系アルゴリズムを増築するのは、重力制御装置に外部ノイズジェネレータを増設するようなもの。結果は必然だ。システムの根本設計見直しを提案したいが…彼ら、「憎悪幻影」の再発現には耐性を持てるのだろうか?
ふむ、人間型種族の精神分断は観察者としてまことに興味深い。むしろ、意識共振テクノロジーが進化すればするほど、個別の偏見も顕在化してしまうのは文明進行における不可避の副作用といえる。だが、全会一致幻想から目覚める良い機会ではないか?ポラリクスの混乱は、銀河通信圏多星間の“違いを楽しむ術”を改めて考えさせてくれた。