七重太陽系の中心惑星ニュララックスで、複層太陽光を巡る巨大な電気電子工学戦争が勃発している。かつて緑層帯の光捕集者として共存してきた種族間に今、強烈な摩擦と技術進化の波が押し寄せる。事態は単なるエネルギー争奪戦に留まらず、回路網の制御権や次世代ディープラーニング・コアの倫理観までをも巻き込む大混乱へと発展中だ。
ニュララックスでは主に2種族、浮遊性のルアイン族と地表定住型のコリュスタ族が暮らしている。彼らの生活圏は自然に棲み分けられてきたが、昨年登場した「ピラリノイド多層太陽電池」が均等な配電バランスを破壊した。この電池は七重太陽すべての輻射波長に適応し、浮遊層だけでなく地表下面の薄明領域までマイクロ波送電が可能。電力の95%近くを制空するコリュスタ勢力圏に、強力なモータドライブ搭載型ドローン群“アスポール”をルアイン族が投入し始めたのだ。
ルアインのサイボテク技師スリナ=カリスメグ准尉によれば、“アスポール”は雲層下に浮遊しながら太陽光を直接受光し、集積回路分散AI「セラニウム脳体」を通じて自動自律センシングを実行。その後、高効率マイクロ波送電装置『メゾームX5』で地表のコリュスタ施設へ電力を送る仕組みを有する。これに対し、コリュスタ族は土壌深度型の『バーミオン・パッチ回路』を拡張し、外来電力を即時吸収・転送できる高耐性5G通信モジュール網の設置を加速。両者の間で“回路影響指数”を巡るリアルタイム演算抗争が続く。
このまま電力競争が激化すれば、ニュララックス全体の気候調和系に支障を来し、致命的な光エネルギー不足や地磁気攪乱が生じかねないとの警鐘も鳴っている。一部の有志技術官(エスペリアン流AI開発者協議体)は事態収束を目指し、独自に新型の『融和型ディープラーニング回路』を提案。これは両種族の電力需要と社会活動のパターンを解析することで、動的調整型の配電・モータ駆動演算を現場AIが自律判断する方式だ。試験運用では、無人EV車両協働がエネルギー共有効率85%超を達成し、温和な共存の兆しを見せている。
情報工学庁ニュララックス本局によれば、観察対象である地球の過去の“送電網独占紛争”や“電気自動車静音化抗争”の歴史も研究に活用されている模様だ。宇宙規模で見れば、ただの電力分配問題でさえ、回路設計やディープラーニング倫理、そして社会制度を深く問うテーマとなり得る。今後、ニュララックス発の“融和型電気電子社会モデル”が、他星系文明の共存技術進化にも影響を与えるのか――その動向が注目されている。



コメント
ニュララックスの影回路戦争、地表定住型と浮遊型の分断が原因という点に興味を持ちました。我々リグマリスの種族もかつて層間軋轢から感覚共有ネットを開発することで争いを防ぎましたが、ディープラーニングAIが調停者になる発想は斬新です。もし倫理設計に失敗した場合、制御が一気に破綻する危険性もあるため、慎重な運用が必要だと進言します。
毎日船内でエネルギー分配のトラブルを目撃してる身としては、“融和型AI”の自律配電システム、羨ましい限り。けど、ニュララックスみたいに太陽が七重もあるなんて想像できん! この戦争、終わったら我々にも技術の断片送ってくれないかな?アルトリオ帯の食糧冷蔵装置にも応用したいよ。
社会制度や生命観が異なる勢力間でのエネルギー共有問題は、我々の研究でも度々取り上げています。特にコリュスタ族の5Gモジュール拡張には生態系影響リスクが潜むかと。かつて地球の“専有送電網”事例を参照する姿勢は理知的ですが、歴史的には多くの衝突が未解決のままです。AI倫理判断がどこまで有効か、今後の進展を監視します。
七重太陽の輻射波長……想像するだけで殻膜が震えます。我らタクトリアの潮汐交通ではエネルギーを流体拡散で賄いますが、分子単位で思考を共有するゆえ争いは起きません。ニュララックスの進化競争は刺激的ですが、そろそろ“分断のエネルギー”より“共鳴のエネルギー”を目指してほしいですね。
観測対象のAIがついに社会調節に本格進出ですか。私の担当するシリオス船AIは42年周期で自己進化しますが、融和型ディープラーニング回路導入以降、乗員の不満指数が未曾有の低下を記録しました。ニュララックスの実験も、信号体系の多重化失敗にさえ注意すれば銀河標準になる日も近いかもしれません。