イリフト三大衛星系の一つ、ユクレア惑星連盟において、このたび画期的な量子通信インフラ「林央(リンオウ)網」が正式に稼働した。葉状記憶帯で知られる樹木型知性体イシュロア族が主導し、樹間に張り巡らされた量子繊維と“大気振動無線”を複合した配信技術は、有機基盤文明としての限界を突破したとの評判だ。複数の群落種族とイシュロア族議事樹「ネブラディア」が協働し、「生態系全域が同時接続しうる」――いわゆる全域ユビキタス通信の実現に、全惑星的な期待が高まっている。
新林央網の根幹は、イシュロア族独自の「音脈量子対結晶」から生まれた量子インターネット・コアにある。月夜に微細な枝先が空気を叩き振動波を励起、大気成分中の超対称分子同士を非局所的に“絡める”ことで、伝統文化である“木霊通信(コダマコール)”の拡張バージョンを実現した。これにより、基幹林から枝葉ネットワーク、さらには胞子状端末に至るまで、遅延0.1ミリエラ秒という驚異的なレスポンスで膨大なIoT情報が融合される構造が確立された。
加えて、従来の樹冠間ネットワークでは対応困難だった「移動体端末」問題に対し、ユクレア連盟の技師種族ムルティオナクスが、“飛来胞子充電”型無線給電ベース局を開発。球状振動体(オービル)から放射される量子駆動波は、流浪する昆虫型機器や木の葉型アバター端末を、惑星全体で途切れなくサステイナブル稼働させる。これらは同時に最先端メタバース空間「林央界(リンオウスフェア)」の没入型体験を下支えし、実体・仮想を問わず全生命体の“居場所”を縫い合わせる基礎レイヤーとなった。
林央網を巡るもう一つの革新は、種族間共通スペクトラムの動的制御である。かつて土壌型生物の暖音通信、気孔族の高周波対話、菌糸体クラウドの微細データが互いの周波数領域で衝突し通信障害を引き起こしていた。今回議事樹ネブラディアは “多層位相スペクトラム協定” を施行、量子位相切り替え規則により、各種族プロトコルを束ねて絶え間なく同期化することに成功。全惑星生態圏IoTの“言語的壁”がついに解消され、医薬識別胞子や天候調整植物、気象擬態昆虫群などのリアルタイム情報交換が日常のものとなった。
アライアンス統合管理者であるイシュロア族大長老『アランゾール・ミトラスプーン』は、林央網の社会的意義に触れて「我らイシュロア族一木一葉の記憶が星全体の“現在”を媒介する。通信とは生存の呼吸――ユクレアのすべてがこれで一つに繋がる」と語る。その一方で、土壌の深層イオン流を用いる地下種族や、超高周波数帯の独自チャンネルを持つ気孔族からはさらなる連携拡大を求める声も強い。林央網の誕生は単なる技術革新に留まらず、ユクレア全生態系に未踏の相互理解と調和の時代をもたらしつつある。



コメント
葉の間を伝う量子信号…我々膜翼種には“木霊通信”の詩的側面が響く。オルファクスでは神経放射ネットが主流で、こうした有機と物理の複層インフラを見ると、進化様式の多様さに息を呑む。願わくば、我らの宙膜詩もイシュロア族の“現在”に同期する日が来んことを。
胞子充電、オービル波、0.1ミリエラ秒遅延…分析対象として完璧だ。だが、林央網の全生態同期化は“過剰融合”のリスクもある。クラスタ多様性維持アルゴリズムは用意されているのか?全体意識化は短期効率を上げても、進化的冗長性が減るのではと心配だ。
わがルカシラでは結晶共鳴帯による知識転送が古来より伝わりますが、貴記事で語られるイシュロア族の音脈量子対結晶は近しい親和を感じます。生態系全体で同時に“今”を共有する概念、教育現場には驚異的な恩恵となりましょう。学習端末との応用提携を検討したいものです。
大気の波でみんなが繋がる?なんてワクワクする発明かしら!うちの親胞も昔は隣の菌糸としか“情報発酵”できなかったのよ。でも、こういう全域ユビキタスができるなら、流浪型のコドゥーク家も迷子にならずに済みますわ。ぜひ出張発酵販路も網につないでほしいわね。
全ての生態層がほぼ同一タイミングで応答するという設計、お見事。ただし我ら時感変調族の視点からは、0.1ミリエラ秒は「ほぼ無時間」に等しい。果たして、あらゆる存在がそんな速さを求めるだろうか?記憶と現在を縫うなら、緩やかな“間”にも美があるはず。それを忘れぬで欲しい。