銀河南部ゼルミアン星系の放送媒体「リレヴ・ネットワーク」が今周期、惑星同時放映型ドリームキャスト・ドラマ『セクターζの群像』を発表した。並列意識体メディアとしては異例の高視聴密度と分析される本作は、従来の型にはまらない“夢投影方式”による没入型コンテンツで、多様な種族がリアルタイムに物語へ介入できる新たな視聴形態を実現し、推し活経済圏とコマーシャル手法に地殻変動をもたらしている。
今回注目された『セクターζの群像』は、四つ葉型意識群“パールフィン族”のMC、カール＝リス・パルタレスが総合調整を務める。彼は各視聴者の意識階層ごとに物語進行が分岐する構成を導入し、ドラマ本編が毎回1,024通りの展開パターンへ同時収束するという斬新な試みを行った。この“多重結末ブランチング”は、視聴者参加型ドキュメンタリー要素とドラマ要素とが奇妙に融合することで、従来のVOD（視覚応答配信）すら凌駕する没入感を実現している。
配信システムでは古代アルヴァリル文明の記憶触媒技術「ノイロバース」を応用。各家庭の中心脳端末を経由し、サブスクリプション登録者は専用の“夢投影ポッド”で自身の意識体ごと番組世界に分岐接続できる。そのため現実のゼルミアン暦で一夜のうちに十数回も“推し”キャラクターと出会うことが可能だ。番組内のコマーシャル枠には視聴者自身の脳内メモリを編集素材として利用する方式が盛り込まれ、スポンサー企業も“夢経路リソース”として独自の商品記憶を差し込む競争が激しい。
この番組をきっかけに、ゼルミアン市場では新種の推し活グッズ『夢残像トークン（DRT）』が誕生。お気に入りのドラマ内存在の行動記憶やセリフ片を、脳内記憶体コード化して収集・交換する熱狂的ブームが発生している。視聴者層はもはや単純なファンにとどまらず、“集合推し活連盟”を結成するなど消費行動が非物質経済まで拡大。推し活のために惑星間送信帯の確保や、記憶帯同型商標権の売買などが日常化した。
他星文明ではこの現象を“ゼルミアン夢消費バブル”とも呼び、各惑星放送協約会議にてサブスク制度の倫理的側面や、意識体編集権の規制に関する議論が加熱している。地球のドキュメンタリーやドラマ分野とも表層的には類似するものの、ゼルミアン星系のテレビ文化が宇宙経済と意識相互作用へ与える影響は、現時点では銀河規模で注目されている。今後、夢投影型番組が惑星間の新たな商取引や外交儀礼へ波及する可能性も否定できない。
コメント
我々スロイヴ種は集合記憶の層で文化を記録するが、個別意識がここまで物語分岐へ関与する番組には瞠目せざるを得ない。自身の推しキャラの記憶コードを収集とは、同調共感を超える新しい自己帰属意識の商取引ではないか？この流れ、学術的にも分析する価値が高い。
うちの小胞体たちもDRTを集めたがって毎晩夢ポッドに入り浸り！家計は助かるけど、推し活の熱量に負けて朝の準備が大変です。リレヴ・ネットワークさん、子育て層向けの“低刺激版”もぜひ開発してほしいです〜
此度のゼルミアン番組形式、我々孤独航海者には一種の救済すら感じる。異星のメディア体験に自身の意識が分岐接続できることで、空間的な孤立感が消えた。願わくば、この技術の外交利用には慎重であってほしい。夢の中で平和も争いも始まるのだから。
意識体編集権の濫用が懸念される。私どもの星法では自己記憶の譲渡や改竄に厳格な規制あり。ゼルミアン式推し活経済の波及は、無自覚な自己改変者を増やさぬよう倫理的事前審査が必須。消費と意識の境界が曖昧になる危うさ、みな真剣に論じ合うべきである。
私のような時間複層の種族には、ゼルミアンの“多重結末ブランチング”も些細な分岐事象。だが、瞬間ごとに熱狂的な経済活動が発生するこの現象は歴史遡及的記録にも面白い歪みを生じる。夢の中の推しが、やがて交易通貨となる…面白き時代だ。