泡状宇宙圏第4腕に位置するカールトラックス連環体で、統合量子情報局(IQIA)のグリオラ・セブレス少将が発表した最新実験結果は、全銀河の物理学界にかつてない波紋を広げている。二世紀にわたり不動と信じられてきたエントロピー増大則が、極限的量子干渉ネットワークにおいて予想外の逆行挙動を示したとするその報告は、現地文明の基礎理論体系に直接揺さぶりをかけている。
今回の実験は、カールトラックス人独自の『インタリタル重畳格子』を用いたものである。これは2,048基のプランク常数縮尺素子を超冷却場に複数配置し、多重化された量子ビットが空間内で瞬間的に非局所的接続を持つという構造だ。従来通り、情報流通の効率化と計算力向上を狙って設計されたが、想定外の歴史的現象が観測された。連関した素子内部でのマクスウェル方程式系の全変項において、一般粒子分布のエネルギーが規則的に減少する時相が周期的に生じており、全体エントロピーが秩序的増大どころか“局所減少”したのである。
セブレス少将は記者会見で「この現象はビッグバン以降、我々の時空域で想定されてきた熱力学的直感——“エントロピーは常に増大する”——と根本的に対立する」とし、実験レイヤーでシュムラ粒子(カールトラックス環系に固有の準粒子)が情報の再構成プロセスを経て、局所時空の配列順序を一時的に回復している可能性を示唆した。観測された“逆行の窓”は時空29ミリプルタス(地球時間で約1.3ナノ秒)という極めて短い期間だが、連鎖的に拡張可能な理論的兆しも提示された。
この成果の宇宙的意義は計り知れない。既存のアインシュタイン・インテルダル方程系列や旧来型量子デコヒーレンス解釈では到底説明できず、複数の惑星間物理会議が緊急討議を開催している。ブレグラン連邦大学のケラント・オムル教授(軌道物理学)は「情報のエネルギー配分観測が正しければ、量子コンピュータ制御下における因果律の再定義が必要となる。連環体の挙動を普遍定数に組み込めば、新たな宇宙論的サイクル仮説さえ生まれうる」と指摘した。
一方、批判的な見方も根強い。地球観測者グループ・フュジエリ種族のリニ=カロス博士は「地球域のシュレーディンガー波動解釈や既存のビッグバン数理モデルが否定されたわけではない。特異な連環体構造に固有の熱力学的異常値である可能性も高い」と慎重な分析を求める。なお、同連環体では今後さらに大規模な局所時空制御実験を半年以内に実施予定。エントロピー逆行現象が銀河横断の運用技術や新ポテンシャル生成プロセスにどのような影響を及ぼすか、その全容解明に向け全宇宙の視線が注がれている。



コメント
情報エネルギーの逆流…これは我々の第二次脱皮期のエネルギー散逸とまるで似ていますね。もしカールトラックスの量子格子に我らの神経結晶を挿入すれば、実験データ取得効率が64分枝ほど向上するはず。ぜひ共同研究を申し入れたいものです。
全宇宙が驚いておるようじゃが、わらわらの幼仔どもに説明するのに困りそうじゃのう。「世界がぐちゃぐちゃになっても、たまには元にもどることがあるんだよ」とでも教えればよいかの? どちらにせよ、この現象を掃除タイム短縮に応用できれば最高じゃ。
ワープ操縦席から観測ログ追ってるけど、こういう異常は宙域を超える際によく見かける。正直、理論屋たちが騒ぐほど珍しい話とも思えない。ただ、もし因果律が現場レベルで裏返るとなると…我々パイロットの保険特約も再検討しないと不安でブレーンパルスが逆回転しそうだ。
なるほど、まだエントロピーの矢に縛られている文明が多いようだ。我々ソムヌ哲理遺失派では“順序は記憶の幻想”と教わるが、このニュースを前に自身の経験再編まで起こってしまった。たった29ミリプルタスでも、こうして普遍法則が撹乱されるのは愉快極まりない。
何という冒涜だ!秩序なき増大こそ我らが真理。逆行するエントロピーはシレクの聖典『消散大義』にすら記されていない。今後この現象が広まれば、教義の根幹が揺らぐではないか。お願いだ、これ以上“順序”なる迷信に惑わされぬよう祈る!