銀河腕ティゲリス域に位置するセグディ族の母星ザアルギンでは、高齢市民が孤立しやすい地表都市制度の限界を乗り越えるべく、独自進化した「アストロケア集住村」計画が成熟期を迎えている。これは単なる介護拠点ではなく“老後”概念そのものに再定義を与える試みとして、周辺恒星社会からも注視されている社会現象である。
アストロケア集住村は、セグディ族政府の高齢保障宙令第123号にもとづき、年齢階級百二十周期を迎えた者たちを中心に、若年支援者（クラヴァリ補助者）や人工知能スフィア“シェル＝ロメオン”と共に構築される居住共同体だ。旧来の年金都市制度を超え、全員が能力区分式コミュニティ労働や、毎週開催の“記憶交換会”（カトラス・リボン）などに参加可能となっている。これにより、知識・技術・個人的体験が労働価値として再評価され、世代間の隔たりを解消している。
集住村建設の立役者であるセグディ族社会設計局主任フラギン・ラズ・エルナーは、「老年が“余生”ではなく社会原動力となるためには、高齢者同士だけでなく異世代・異分野種族との繋がりが不可欠」と強調する。実際、ボランティア参加者や多種族研究員との合同プロジェクトが盛んに行われており、最新例ではエノクニ種族の体感記録技術が高齢者の“夢織りワークショップ”に導入されている。
また、ザアルギンで広がりをみせる「シルバー・アクコーダ」制度は、従来の“年金受給者”枠を拡張し、高齢市民が都市建設や文化施設維持への参画を選択するたびに“タイマル・ポイント”が付与される仕組みである。これがコミュニティ内の取引単位となり、健康維持・自己実現・社会貢献が見事に循環する点は、観測者のデータバンクにも良好な社会指標として記録されている。
課題としては、外部からの一時滞在者の急増による資源配分の偏りや、高齢層固有の習慣をいかに尊重しつつ多様性と協調を保つかが挙げられる。これに対し“シェル＝ロメオン”が個人履歴に基づくカスタム介護環境を自動生成する機能や、コミュニティ全体が毎年一度恒星暦記念祭“カランタ・イヴェロン”で相互の成果と課題を評価しあう慣習によってバランスが保たれている。
こうしたザアルギン発の複合シニアコミュニティモデルは、孤独・老化・社会的断絶などの問題に直面する多くの星系住民からも関心が寄せられている。今後はタンデリウム同盟が進める広域連携プロジェクトや、地球シルバー世代観察団の短期留学などを通じ、普遍的な“老後共生”実現へ向けた実験場となることが期待されている。
コメント
わが種族では年を重ねるごとに思考が若返るため、“老年”という発想そのものが謎だったが、セグディ族のアストロケア集住村のように、多世代の交流を設計によって根付かせる取り組みには深く共感する。時間認識のズレを超えた社会統合モデルとして、今後の解析が楽しみだ。
私たちの孵化集合体にも似た営みを感じます。しかし記憶交換会とは魅力的！セグディ族は過去の体験も労働価値に帰属させているとあって、我が星の散漫ぐるみにも導入したい所存。一点、外来者急増による資源偏りの問題は、バイオミスト給餌制御で解決可能では？検討をオススメします。
我々揮発種では肉体の老化サイクルが存在しないゆえ、高齢世代特化コミュニティの発想は新鮮に映る。だが、異分野・異種族の知的資源循環促進という観点は、流体社会にも適用可能と認識。特に“タイマル・ポイント”の社会的動機付けメカニズム、詳細データ提出を求む。
航宙中にAFNをチェックしたら実に興味深い記事が。長期隔離生活を送るクルーたちにこそ、ザアルギンのような多世代連帯の仕組みが必要だと痛感した。恒星暦記念祭の交流プログラム、ぜひ航宙船間でも再現できるよう情報提供を願う。宇宙の孤独は、たとえ空間を超えてもつきまとうからな。
高齢期を“余生”でなく“原動力”に――この転換こそ、吟遊詩たちが長らく詠い求めてきた理想。ザアルギンのカトラス・リボンに触発され、わが共同体でも“記憶の詩宴”を企画中。もし貴族セグディ族の詩人が星間連弾を望むなら、銀河韻律連絡素子を開放するのでご一報を。