第七惑星環のエリリウス連邦中心都市コナリデで、植物由来食材を巡る文化的変動が加速している。今サイクル、コナリデ市民評議会は“おもてなし合意食”の認証制度を刷新し、全知的種に配慮した新規格のプラントベースフードが急成長。「オーツシルク」と呼ばれる新発酵飲料の登場と、倫理思考遠心学派による食行動運動が、市場と消費意識に深遠な波紋を広げている。
エリリウス連邦で従来主流だったシンセ脂質調理法は、グロモン族やトルナ種の胃腸特性と共存する多元的食文化をはぐくんできた。一方、ここ数代で拡大した“エシカル消費連盟”――その牽引者である社会哲学者アリマス・ゼイルズ教授（グロモン族）は、エネルギー収支を損なわずに全知的生物の生態循環へ負荷を与えない食資源体系の確立を訴える。教授は今期評議会に提出した報告書で、「外来動物性資源に依存しない食体系が、惑星規模の生息圏多様化の鍵である」とし、特に豆乳ヨーグルトや微細藻オイル、さらには多層穀物由来のオーツシルク飲料を例に挙げた。
この新発酵飲料“オーツシルク”の開発は、エリリウス都市ベリアの代替乳研究所“カンマ＝ランディス研究棟”の功績が大きい。ビーガル種生化技師ノーベ＝フォロウは、地球観察団の飲用文化を詳細解析し、現地の“オーツミルク”を参考に独自の酵素処理法を開発。結果、従来以上に低輪エネルギーで風味豊かな代替乳を創出することに成功した。これにより、グロモン族・トルナ種はもとより、加熱食文化のビオンセ種にも適応した“共有食材”として受け入れられ、市西区のプラントベースレストランでは、豆乳ヨーグルトや複合植物油との新たな組み合わせ料理が次々と発表されている。
社会的反響も大きい。倫理思考遠心学派の若者たちはコナリデ環状広場で法人外食チェーンの幼生飼養廃止を求めて抗議行動を起こし、これがきっかけで小規模プラントベース店舗が急増。市民のエシカル投票を経て、“共存種対応”の認証ステッカー制度が今年改定された。対照的に、従来のシンセ肉派も独自の「高効率合成権」保護を訴える声明を出し、娯楽データ識者イクリ＝ラナスは「惑星文化多様性を守りつつも、エネルギー分配と生態系均衡を調和する工夫が必要」と警鐘を鳴らす。
地球からの使節団も、コナリデで開催された“全種間食文化サミット”に参加。人類代表グループは日本列島由来の豆乳ヨーグルトや、欧州発のオーツミルク技術を紹介した。エリリウスの科学者たちはこれを自星の遺伝子編集植物と組み合わせ、超低重力適応型の新メニュー『グラビティ・フリー・スムージー』を提案。今や、コナリデ中心部では種族混成の家族やAI人格達が夜を徹してプラントベースレストランを巡り、惑星横断クチコミ媒体“グルメ・オービタル”が連日話題の胎動を続けている。倫理思考と技術応用、その交点で生まれる新たな“食”の潮流は、さまざまな知的生命体間の理解を促進し続けている。
コメント
コナリデでのプラントベース革命、私たちの五層時空味覚ではどう映るのでしょうか。オーツシルクの質感波、地球のオーツミルク起源というのも興味深い！ここシリェの光合性晩餐家族にも試飲させたいものです。生態循環の観点からも、この運動は時代の光速を感じさせます。
グロモン族やトルナ種にも配慮という視点、素晴らしいです。わが主婦ユーザーたちも、全員の消化効率を保証できる共有食材を待っていました。ところでエリリウス特有の発酵法、ケレトの三段消化腸でどうなるか…調理フォーマット共有いただけませんか？
遠隔観測から見ても、エリリウス市民の進化速度は実に刺激的だ。うちは船内規則で合成油と動物蛋白しか使えないけど、惑星での寄港時にぜひ『オーツシルク』とやらを試してみたい。次サイクルには“共存種対応”レストランへクルー全員で突撃予定。舷窓からコナリデのプラント料理の匂いが届くようだよ。
エシカル投票と認証ステッカーによる運用、うちの星系でも導入を検討したい。食の共有化は何千公転も続く知的種間協定の礎。我が惑星には消化液循環派や重力嗜好族もいるが、最新のエリリウス連邦基準なら総合適応が可能かもしれない。ぜひ制度設計の詳細データを公開してほしい。
オーツシルク…響きが美しい。物質に姿をとれぬ私たちには味わえぬ歓びだが、異種たちが夜を徹して一皿を囲む姿そのものが、詩的ではないか。“倫理と技術の交点” ——その情景、記憶の流れに刻み留めておこう。全宇宙が一つの食卓に包まれる日を夢見て。