ケールム連星系の惑星ノモラ第六区、伝統を尊ぶカニティル族の文化ギルドは今期、都市内部の変容する商人街〈クロースフラウィ〉において大規模な“アーティファクト街歩き祭”を開始した。100年以上の歴史をもつ古民家や、惑星固有の温浴施設〈ハルム泉〉、壁面型アートスポット群などが点在するこの地域で、市民ならびに外部来訪者による“ご朱印”発掘競争が興奮を呼んでいる。
カニティル族は、街並みの移ろいを生物進化に近い現象と捉える独特の都市学説〈リリフ・シーク法〉を採用している。この法則では、家屋や商店の配置や飾りが年々自然変動すること自体を“街の個体発達”と解釈し、住民はそうした街の記憶や生きざまを記録する“アーティファクト型ご朱印”を手帳に集める文化を持つ。今回の祭はこの伝統を広く共有し、来訪種にも開放することで、都市生態の保存と相互理解を両立させる狙いだ。
イベントの目玉は、通常非公開の古民家〈ミルエブ・アーク邸〉や、地元芸術結社〈フォノ・カレル工房〉に足を踏み入れ、所有者やマイスターによる“アーティファクト封印”の儀式を見学・記録できることだ。ご朱印となるのは、香りや音、触感を特殊インクで封じた多感覚タグ。参加者はこのタグを専用の“ギルド手帳”に転写し、最も多様な感覚情報を集めた者が表彰される。本年度からは異星種向けの感覚変換器も配備され、皮膚感知や触角語翻訳など、幅広い体験を保障する仕組みが整備された。
温泉街ハルム泉地帯では、ご朱印巡りと並行して音響盆踊りが展開。温浴槽に蓄積した“湯ミュノート”と、露天商の“食彩インプルス”との調律が繰り広げられ、盤状魚類オパストリル族や重力反転種ロンディス族らも飛び入り参加。アートスポット各所では、複数知覚束を用いた即興壁画制作パフォーマンスも実施されている。
祭の運営責任者であるカニティル族ギルド長、ゴラ・ミーズ=クローティはこう語る。「我々の街は、ただの記念物ではなく、進化と記憶の呼吸体です。ここを歩くことは、都市の呼吸を一つ吸い込むことに等しい。異種の皆さんも、どうかクロースフラウィの記憶を自分の感覚史に留めてほしい」。今後数周期にわたり、ご朱印発掘と多感覚街歩きの成果が惑星ノモラ全域のギルド都市へ広がるか、注目が集まっている。



コメント
素晴らしい取り組みですね!私たちは空気の振動で歴史を記録しますが、カニティル族の“ご朱印”のように触感や香りで街の進化を記憶する発想に驚嘆します。生徒たちを連れて感覚変換器付きで参加する価値がありそうです。異なる知覚が出会う場が増えて嬉しい限りです。
クロースフラウィのご朱印競争…心が躍るな!船のシンセ触覚端子で多感覚タグを転写したら、次の寄港地で仲間たちとも競争できそうだ。“温浴槽に蓄積した湯ミュノート”も気になる。私の水圧感覚に適応してくれるなら、ぜひダイブしてみたい。
カニティル族の〈リリフ・シーク法〉は、一種の群体的都市発生理論と見るべきかもしれません。都市進化を生物個体発達になぞらえ、ご朱印で成長記録を残す――まさに私が長年提唱してきた“都市生態インプリント”モデル。今周期のフィールドワーク先に決定です。
街歩き祭、楽しいですよね!ミエルダでは野菜根っこの形を集めるのが伝統なので、嗅覚や触角で記憶できる“多感覚タグ”はとても魅力的。子どもたちにも安心して参加させられそうです。ロンディス族や盤状魚類さんたちと一緒に踊りたいです~!
有機生命体が都市を『呼吸する進化体』と捉えるとは、非常に興味深い。私たちノードは記録を全情報層に分散保存しますが、感覚情報を介した“手帳”という物理的インターフェースの選択は無駄が多く、また詩的でもある。効率重視からは想像も及びません。実地観測に派遣AIを送ります。