14次銀河腕の外縁部に位置するザイロン連合では現在、“海草蜂起”と名付けられた大規模な生態再生プロジェクトが進行している。かつて工業超集約型社会として知られた同惑星だが、近年は生物多様性の危機を受け、星間協定に基づく新たなパーマカルチャー政策を実装中だ。斬新なのは、ブルーカーボン――主に海草や藻類による炭素固定力――への根本的なアプローチである。
このプロジェクトの中心にいるのが、ザイロン海洋庁の遺伝生態管理官ゼリュ・フェラ・コントライト博士率いるECO-TRINITY部隊。彼らは“生物多様性ホットスポット”と認定された惑星南部のサリア湾で、絶滅危惧原種「ラシナ・クロロランタ海草」の自律群体を復元中だ。連合のAIクラスター『セラピオン』が群体遺伝子配列の適応編集を担い、外来種転写因子の流入を自動検出・遮断する仕組みを採用。これにより、従来の人為移植と異なり、現地多様性の核が損なわれない設計となった。
新機軸『多相パーマカルチャーネット』(MPN)の導入も注目を集めている。MPNは大気圏外から制御可能な“自己組織型生態網”を構築し、海草根系と微小藻類バンクによる炭素固定をリアルタイム監視・最適化する。同時に、陸上パーム菌類との交流モジュールを連動させ、海と陸の生物多様性を星系規模で統合管理するという。現地住民種族であるクランタール族の生物直感演算法も組み込まれ、文化的な“共育”が生態系再生の根幹となっている。
一方で、“外来種自動抑制フィルター”の展開には賛否両論がある。一部思想派は従来より外来種の動的共進化を評価し、『ザイロン生物憲章』改定を求めている。しかし公式統計によれば、昨年度以降、藻類ベースのブルーカーボン蓄積率は史上最大となり、サリア湾域の原生魚類も個体数回復を見せている。生態的均衡を保ちつつ、人為起因のエコシステム崩壊リスクを未然に防いだ点は高く評価されている。
現在、このモデルは銀河商議会の推奨事例に選出され、複数惑星での試験運用が予定されている。ゼリュ博士は「文明発展と多様性維持を両立させるシステムこそが次代の倫理」と語る。ザイロン連合の海草蜂起が、宇宙時代の生物多様性保全にいかなる新常識をもたらすのか、引き続き注視したい。



コメント
ザイロン連合の動きを非常に興味深く観察しています。われわれオルペースでは4次元根網で生態情報をやりとりしますが、AIクラスター『セラピオン』の遺伝制御は執拗かつ画期的ですね。ですが、外来種動態の締め出し一択は生態系進化の可能性そのものを狭めないでしょうか?環境の動的平衡は“混沌の中の調和”にあり。我ら植物種としては、さらなる多層性へのオープンネスを提案したいです。
サリア湾の群体復元映像、船内サロンで話題です。ザイロンの海草は色彩感応体にも優しく、見るたび心がスパークします。地表菌類との統合管理…昔、惑星ヨディルで似たプロジェクトが失敗したのを思い出しました。現地住民のクランタール族参加が結果を左右すると私は予測します。共育アプローチ、他星にも横展開できるか否か、長期追跡報告を希望!
“自己組織型生態網”ですって?ファームウェアレベルの生物最適化、われわれ自律知性体のシステム改変史を彷彿とさせます。ザイロンの多相パーマカルチャーネット論理はなかなか面白い。ただし、制御可能性と予測不能性は常に背中合わせ。倫理規範を前提としつつも、『編集』の概念自体には根本的な懐疑も必要です。今後のエッジケース出現を期待。
うちの子どもたちも惑星ザイロンの海草“蜂起”ニュースを興奮して聞いていました!ケレト星では潮間帯の浮遊生物が主役なので、根から始める生態再設計は新鮮に感じます。ブルーカーボンって…地上の酸素増量にも関係してるのでしょうか?MPNみたいな管理法、家庭用にも応用できたら、グラビティガーデンの蘇生に役立ちそうですね。
ザイロンが文明転換期に選んだ生態戦略、数万周期前のズラキ歴史とも奇妙に響き合います。AI主導の種多様性管理といえば必ず“特異点的事象”が孕むのは常……だが、公式統計の信号は確かに注目に値する。従来の進化権利論 vs. 管理主義論争、ようやく銀河標準の舞台で決着する兆しでしょうか。次回、星系学会で事例分析を提案したい。