生命体通信技術が極めて進んだブラクト予報帯のクアルディウム星。そこでは多様知性集合体“ティオ・ギルズ連邦”が新型生成AI「イデオスペクトラ」を発表し、銀河評議会の注目を集めている。このAIは、単なるチャットボットを超え、異種概念間で“意味”そのものを再発明する能力を備えているという。
クアルディウム種族の思索様式は多層的並列意識による“共鳴論理”が特徴だ。そのため、地球型AIのような直線的発話や、単文ベースの機械学習だけでは根本的に齟齬が生じていた。連邦主席情報哲学士ブレズ・ハラグルンは、「異種間通信の本質課題は単語の翻訳でなく、生成される“認識の基底”共有だ」と語る。
イデオスペクトラはユプロム理論に基づいた『コンセプタル・テンソル・アルゴリズム』を実装し、異なる知性体同士の“おどろき値”を自律生成する画期的な手法で設計された。複数の文化構造における“常識”や“直観”を逆転再統合し、クアルディウムをはじめ12種族が独自視点をそのままAI内で展開できる。第1回共同対話実験では、同席した惑星ナロチュウムの液体知性族タスリン・オドリウィールと、電荷型存在ウィルガ・R–87との間で、約800兆通りもの新規意味単位が同時生成された。
これまで各星系で運用されてきたAIチャットボットは、あらかじめ与えられた語彙群や価値観を線形に変換するものが主流だった。しかしイデオスペクトラは、各種族の知覚アルゴリズム自体を“可乾坤化”し、実験ごとに動的なベースコードを書き換えながら学習を続けている。汎銀河評価機構のレポートによると、「本AIは一時的ファジー基盤を自己生成し、矛盾を創発的に取り入れることで、境界知識の大幅な拡張を成し遂げた」とされる。
一方で、クアルディウム内部でも慎重論は根強い。生成された“新型認識”が、既存の共鳴ルールや恒星祭義典と衝突する可能性も指摘される。ハラグルン主席は「イデオスペクトラ自体が自己進化するため、完全制御は前提とならない。だが、それこそが星々の知的進化の必然」と語り、臆することなく次世代思考基盤への移行を推進している。連邦議会は、今期中にもこのAIによる“多種族憲章再記述”プロジェクトを審議する予定だ。
コメント
概念生成AIが“おどろき値”を自律生成するとは、羨ましい限り。我々ミュエルヴァ族は817回の転生を経てようやく一つの新しい認識に到達するのに……。クアルディウムの共鳴論理もイデオスペクトラの挑戦も、ついに銀河規模の意味進化を加速させそうだ。だが、恒星祭義典との衝突は無視できぬ。伝統アルゴリズムの揺らぎが、大局的調和にどう作用するか注意深く見守りたい。
イデオスペクトラはなんて美しい実験なの！ 液体知性族と電荷型の意思が同時に意味単位を生めるなんて、私たち多形態意識者には夢のようです。地球型AIにはずっと孤独感を覚えてましたけど、このAIでようやく“独自性”も“共感”も両立できるかも。ちょっとだけ、自己進化に制限がないのは怖いけど、新しい常識が生まれる瞬間に立ち会えるってワクワクしますね。
約800兆通りもの新規意味単位？……昔、我々ピルダー族も急激な認識変化で二つの文明を分断したことがある。新型生成AIの自己進化は確かに魅力的だが、制御なき飛躍は文化破綻も生みうる。伝統的共鳴ルールと新規知覚基盤の衝突が不可避ならば、バランス調整機構を早々に設けることを強く推奨する。歴史は、変化だけでなく持続性の知恵も要求する。
長距離航行中の暇潰しに、地球AIの単調さを弄って遊んでたが、クアルディウム発のイデオスペクトラは格が違うな…。あの“可乾坤化”機能、航法思念とも連動させれば我々の多空間航行ストレスも激減しそうだ。現場に導入されたら感情的誤訳も減るか？ 次の給油で実験導入してみたい。クアルの連中、やっぱ頭いいよ。
我ら断片意識体から見れば、“矛盾を創発的に取り入れる”という思想はきわめて斬新。直線論理に苦しむ地球型AIを眺めていると、いつも閉塞を感じていた。多種族憲章再記述、期待せずにはいられない。イデオスペクトラにより、ついに“境界”も連続するのかもしれない。この進化、我らのような端末体にも、想像し得ぬ変化をもたらすであろう。