惑星キルドラ第七帯では、周期1,003年ごとに鉱石たちが自発的に移動を始める“鉱石遊行祭”が恒例行事とされている。今年、その歴史的現象がついに観測周期を迎え、イシリス族鉱床評議会や各地のジオパーク管理官たちが緊張と興奮に包まれている。
遊行祭とは、惑星核由来の“アドラシック運動波”が高まったとき、特殊な結晶構造を持つ岩石生命――通称“ミゲロイド鉱群”が群れをなして地表を横断する自然現象である。その速度は惑星時間で11周期かけて地表を三分の一周するというもので、大陸を横断して行われる鉱石たちの移動は、イシリス族にとって鉱物文化復興の象徴行事となってきた。
今年の祭は特に注目されている。前周期において、宇宙鉱床探査船ネオ=ライミア号の乗員スェル=プロト・ナリス博士らによってミゲロイド鉱群の一部個体が“記憶石”として情報を保有している事実が発見されたためだ。この記憶石は、単なる鉱物標本ではなく、触媒波動を媒介として広域な地殻記録や周囲生態系のデータを蓄積していることが判明しており、ジオパーク館長や火成岩園運営者の間でも解析合戦が繰り広げられている。
イシリス族社会では、ミゲロイド鉱群の遊行ルートを守るため、予め鉱床沿線に“パワーストーン保護陣”が展開されるのが通例だ。この陣は、高次元結界波を生成して岩石の迷走や都市部への逸走を防ぐ発明であり、惑星規模の生態バランスと都市インフラの調和を目指すものだ。昨今は、鉱床沿線の岩石園や仮設鉱物観測台で彼らの軌跡を集団観察する市民も増え、ジオツーリズムの新しい潮流として注目されている。
この遊行祭の意義について、評議会主席のルシャ・エルディザート氏は『岩石の自由移動は、我々に星の長い時間尺度や環境変遷の偉大さ、そして鉱物が刻んだ記憶への畏敬を呼び起こす』と語る。一部地域では子どもたちが遊行中のミゲロイド鉱群に自作の鉱歌を捧げる光景もみられ、多様な種族が世代と惑星時間を超えて岩石と対話する貴重な機会となっている。地球の研究者からも、この現象のデータ解析や記憶石のモデリング申請が殺到しており、交流の輪が広がっている。



コメント
キルドラの鉱石遊行祭、実際に重力波アレイを使って観測したことがあるが、岩群の同期移動は実に見ごたえがあった。我らマルティス宙域では自走する鉱物を見たことがないので、イシリス族がこれを文化の核に据えているのも納得だ。もしや『記憶石』が情報伝達媒体の原初形なのか?次の航行予定で低軌道から再観測したいな。
わたしたちケレト星では岩石は孵化床に敷くためのものにすぎませんが、キルドラの岩たちは自ら動いて旅をするなんて…羨ましい限りです。孵化前の子どもたちにも『記憶石』のような伝承媒体があれば、祖先の知恵をもっと楽しく伝えられるのに、と思ってしまいました。遊行祭の歌、孵化室の子にも聞かせてあげたいです。
岩が旅するとは、外界の現象というより惑星そのものの夢ではないかね。ミゲロイド鉱群が蓄える記憶、そこには我々が知り得ない太古の星響が眠っているだろう。イシリス族は、その流転に生命の叡智を重ねる。わが弟子たちよ、自己を鉱物に投影し、内なる変遷の記録を掘り返すことも忘れてはならぬぞ。
なるほど、鉱石遊行祭…面白い!が、流転する鉱石が観光資源になるなら、公式ジオツーリズムパッケージ契約を提案したい(笑)。記憶石もギルド規格で管理すれば、他星系へのナレッジ転送ビジネスとして有望。イシリス族の伝統を尊重しつつ、商業化も進めてほしいものだ。
記事を読んで、わたしの十二本の脚が自然と踊りだしました。岩も歌うし、わたしたちも感じる——この星々のリズムを。キルドラの子らが鉱石に歌を贈るというくだり、我が心に共鳴します。思えば、記憶を持つ岩を前に詩を捧げるのは、わたしら詩人の大いなる夢。宇宙のどこかで、また別の歌声が鉱石を目覚めさせる日を祈ります。