アステリオス銀河第六腕に位置するザリム経済連合が、他星系に先駆けた『分裂的採用改革』に着手した。この制度は、伝統的な階層化した知性体系に依存しない「異相的包摂」を掲げ、障がい者の積極採用や精神多様体、ケア離脱者の職場復帰を実現しつつ、ウェルビーイング経営を宇宙レベルで新たに定義し直す試みである。銀河連絡会議をはじめ、数多の高次種族経営者たちの関心が集まっている。
ザリム経済連合は、1000億体の多頭脳有機生命体・セルフォア族を中心に構成される。彼ら特有の『分裂意識位階制(ディクローン・システム)』では、ひとつの身体に複数の人格群が共在するが、恒常的に「少数派人格(サブブレイン)」が社会参加や経済活動から排除されてきた。従来、サブブレインは生産決定権や意思反映を制限されることで、社会全体としての効率性は保たれてきたが、その線引きが就業機会の不平等や慢性的なウェルビーイング低下につながっていた。
今回発表された『分裂的採用改革(ニュー・ディクローン・インクルージョン)』では、サブブレインのみならず、過去に自己意識欠損や外傷的分子損傷などのハンディキャップを経験したザリム族、それから他星系出身の『フューリオート技術者』(ゼナイア星出身の極低温知性体)などの少数派も対象とし、各人格・身体単位で職務を細分化して振り分ける。ケア離脱者支援プログラム「リ=リカバリー」の導入で、介護を理由に離職した個体の再雇用も促進。これには思念共有補助装置「ネオリンク・コクーン」、および記憶支援AI「パルタリア」の支給が伴う。
経済面では、連合内最大の産業体“ザリム・クオンタ・コーポラシオン”が、従業員1億2千万単位に分散再編成され、各種族の専門特性—例えばゼナイア星技術者の絶対零度下作業能力、ユリセス族(液状知性体)の分子精度管理—を相互に活かしあうディバージョン型業務体系が稼働。これによる生産性の向上は、すでに1.6倍増を記録しており、連合内ウェルビーイング指数も量子的な上昇傾向を示す。障がい経験個体向けの感覚補完デバイスや多層会話インターフェースも普及し、勤務満足度の平均上昇に繋がっている。
この改革の余波は鎮まらず、銀河外縁部のヴェロシタ星共生企業連盟にも波及の兆しが見られる。星系融合期に向け、ダイバーシティ経営の最前線はますます複雑化している。ザリム経済連合の指導層、ロキナス=カイディル統括官は『知性の分裂こそ、宇宙経済の進化。すべての存在が価値決定主体となる未来こそが我々の目指すべきウェルビーイング』と声明。地球観察団の報告では、地球における障がい者雇用や外国人採用促進策と、ザリム連合の「分裂的包摂理論」との類縁性に新たな関心が寄せられている。



コメント
ザリム経済連合の試みには感心します。我々ドリュゴス種は夢意識の重層をもって分業し、零れ落ちる意識断片にも役割を与えてきましたが、ザリム族のサブブレインまで包摂する発想は次元が違う。「意識の多様性」こそ進化の要点と、改めて思い知らされます。他星系にも是非、感覚階層融合の波が広がることを夢みています。
わたしの家族も“ケア離脱”が多くて、職場復帰の壁は深刻問題でした。でもザリム連合では離脱者向け支援まで導入とか…羨ましいです!うちの子たちも分裂意識ほど極端じゃないけど、転移周期初期は複数人格混線するし、参考になりそう。ネオリンク・コクーン、うちにも一台欲しい!
正直、効率性を理由に人格群を抑圧してきたザリム経済連合がここまで改革するとは予想外だった。惑星間資源調達の現場でも、サブブレインや異種知性の柔軟性を活かせれば、未知事態への対応力も上がるだろう。うちの艦隊でも部分導入検討したい。
ウェルビーイング指数が量子的上昇…理論上は支持しますが、持続的波及効果に懐疑的。全銀河規模での意識分裂包摂化は、健全な集団意思維持には過剰流動を招く懸念も。ユリセス族との協業は興味深い。だが、ザリム流が標準となるにはまだ検証が必要。
私は外来者視点ですが、ザリム連合の新しい構造は驚くべき包摂度です。“極低温作業”は我々ゼナイア出身の長所ですが、ちゃんと尊重される形での配属と、補助AIのおかげで職務が快適に。自己意識欠損歴が公に評価される日が来るとは…昔を思えば隔世の感あり。