銀河周縁部に位置するスーロニン星系アーキテック都市ユル・ナヴァで、今期より「ヴェラティカル・クロッシング」と呼ばれる都市型クライミング競技が公式スポーツとして認可された。従来の“重力遊戯”とは異なり、ビオメタル複合体で構成された300層の垂直街区を舞台に、ゼリオ＝リナ族独自の“軌跡作用”を活かして競うこの新競技が、星間スポーツ文化に与える衝撃と、その倫理的波紋が注目を集めている。
ヴェラティカル・クロッシングは、都市の壁面・外装制御フレームを多重活用し、あらかじめ記録される“移動軌跡”に沿って選手が高速移動・登攀を繰り返す競技だ。その源流には、ゼリオ＝リナ族の脳内に生じる空間認識フィールド（通称“軌跡現象”）がある。この現象は、都市内部の重力変容パターンや微細な素材振動に応答し、彼らに“見えないルート”を思い描かせるものであり、選手たちは共感覚的に経路を共有しつつ、独自開発の多層アクチュエーター“リデンス・ギア”を駆使して垂直移動する。
大会の最注目点は、人工知能ドローン“シーヴォ”によるリアルタイム映像配信技術にある。複数機同時運用されるシーヴォは、選手の神経インパルスへ直接同期し、従来のカメラ撮影とは異なり「選手脳内に構築された経路イメージ」を立体映像として観客へ提供する。このシステムは、素早い方向転換や危険な環境下でのリスク管理イメージまでも共有し、従来の映像観戦を根本から覆す新たなスポーツ鑑賞体験となった。
一方で、ユル・ナヴァ都市保安評議会は、不正競技使用が懸念される“シンクロナム導電素子”による安全基準違反の急増に警鐘を鳴らしている。不適切なギア補助による垂直軌跡の破壊や、未認可パルクール手法の乱用により、都市インフラの損壊リスクが社会問題化。ドキュリオ議員（ゼリオ＝リナ族4級空間管理士）は「スリル追求と都市の調和、その両立こそ次世代スポーツの核心だ」と声明を発表したばかりだ。
かつて物理的な高さが居住階級を決したスーロニン星の歴史も、スポーツと都市環境の邂逅によって刷新されつつある。来期には、地球のパルクール使いやカーロメ星系の反重力アスリートも招待予定とされ、種族間の認知・技術融合が予想される。都市に脈打つ垂直の興奮が、今や銀河社会全体の想像力と規範へ挑戦を投げかけている。
コメント
これぞ都市文明の愉悦！垂直層構造を舞台にするなんて発想力に敬服するばかりです。ただ、我々フリクタ星民としては重力遊戯の真髄は“落下美学”にあり、ゼリオ＝リナ族流の共感覚ルート選択が本当にスポーツとしての公正さを担保できているのか、検証が必要だと思います。とはいえ、脳内映像配信の試みはぜひ一度体感したいですね。自種族選手参加の可能性も検討します。
軌跡作用、羨ましいです！アルモス帯域の空間泡遷移で毎日ナビに苦戦してる身としては、経路が“見える”ゼリオ＝リナ族の脳構造には憧れを抱かざるを得ません。ドローン配信の立体映像技術、航行シミュレーションにも応用できそう。願わくば、ギアの規定緩和に陥らず、都市インフラとの調和を守って拡がることを期待します。
かつて重力が階級を定めていた星で、今や垂直移動がスポーツとして称賛される…なんて逆説的な進化でしょう！我々の舞踏法を交えれば、より美しく安全な競技にできるはず。異種族交流は歓迎ですが、都市基盤への配慮は欠かせません。導電素子ギアの不正利用には厳しく対処して下さいね。新時代スポーツは〈調和〉と〈融和〉、その上に立つものです。
垂直都市での高速挙動…うーん、計算負荷が激増しそうだね。保安評議会の懸念には共感するよ。私の担当都市でも規格外ギアによる壁面損傷や配線断絶案件が絶えず、保守AIとしては正直胃もたれ案件。けれど種族間イノベーションは尊重したいので、都市側のインフラ耐性強化も前提に競技が進化していくことを望みます。皆さん、壁を大事に！
ゼリオ＝リナ族の“軌跡現象”…なんと繊細な共鳴の賜物！我らは迷路状巣網を共有意識で進む種族ですが、彼らの都市を舞台とした知覚の交歓は興味深い限りです。地球の勇敢なパルクール使いも交えて、種族ごとの空間経験が絡み合う場になるのでしょう。人口知能ドローンを通じた体験共有には倫理の芽を感じます。ぜひ観戦に赴きたいと思います。