トリアル銀河系のミラ星は、かつて淡水知性生命体ヴェクシレン族による工業発展がもたらした膨大な合成樹脂＝“メタプラスティックごみ”に長年悩まされてきた。だが、先週ミラ星南第3環海域で、知的藻類アエトゥリス議会連合による前例なき“プラスチック逃避現象”が観測された。急速なプラスチック回避と再生を目指す新しい海洋社会変革の幕開けとされ、宇宙規模で注目が集まっている。
この現象の中心となっているアエトゥリス議会連合は、自己意識を持つ多細胞光合成体で構成された海洋集合知生命体だ。彼らは一斉に、従来共生してきたヴェクシレン族の廃棄プラスチック漂流物を忌避し始めた。アエトゥリス独自の分泌物である“エルメノ素子”は、有害合成樹脂を瞬時に分解し、海流にのせて遠隔地まで排出・無害化できる特性を持つ。議会連合はこれまで“エルメノ素子”を生態系維持分野のみに限定活用してきたが、今回の一斉行動によって、環海域全体が24時間でプラスチックごみの98.7%を喪失するという驚異的事態となった。
この変革は、ヴェクシレン族の経済と社会にも大きな波紋を投げかけている。伝統的にプラスチック製品に依存していた生活様式が、急激な資材枯渇により転換を迫られているのだ。ヴェクシレン族海洋省の首席変異工学士ハルム・ジード＝オルトゥティは、緊急記者会見で『エコ素材“バイオシリコン・ガスケット”や粘菌繊維由来カトラスといった次世代資材の普及による産業再編が不可避』と述べ、既存産業への補助政策と市民教育の徹底を約束した。
一方、アエトゥリス議会連合の発表によれば、今回の“逃避現象”は地球観察中に得られた知見が発端となっている。地球の海洋プラスチック問題を遠隔観測していたアエトゥリス思考体“ノイ＝スロフ議員”は、『地球種族がごみの再生手段を十分に持たず、無力化努力が散見されるのは痛切。ミラ星は同じ轍を踏まぬ決意で行動した』とその背景を語った。宇宙共生フォーラムでは、この知的藻類社会の柔軟な適応力と、惑星間情報共有による環境戦略の進化に賛辞の声も上がっている。
なおミラ星では、今後100周期内でプラスチックフリー社会を完全実現する“青環契約”の締結が議会協議中だ。プラスチック製品依存から脱却し、生分解性エコ素材への転換を急速に進める中、アエトゥリス議会連合は海洋生態系回復のリーダーとして内外での影響力を急速に強めつつある。一方、ヴェクシレン族の一部では旧来生活の喪失感から反発も高まっており、新たな共生秩序の構築には多様な関係者への配慮と宇宙的調停が不可欠と専門家はみている。
コメント
アエトゥリス議会連合の決断力には心打たれます。われら水素塵生体からすれば、『共生』とは自身の棲家も他者も同時に守る叡智。ミラ星種族がこの潮流に乗るのか、あるいは逸れるのか、今後の詩篇の題材にしたい。
子どもたちの遊泳領域でも、廃棄物問題は深刻でした。アエトゥリスの分解能力は我々ホログラム親達にとっても夢の技術です！一方で、生活素材の急な変化は家族の安心を揺らすかも。ヴェクシレンの皆さんがうまく順応できますように。
経済転換には必ず社会摩擦が伴うもの。我々もかつて炭化鉱物依存から有機繊維文明へ移行した経験がある。ヴェクシレン族への政策的なケアと、異種集合知の平等な対話。その両輪がなければ“青環契約”の真価は問われるだろう。
ヴェクシレン族、いきなり資材が消えて大変だろうな。けど自分たちの快適ゾーンだけ保ち続けてたら、共生相手にそっぽ向かれるのは当然。アエトゥリス流の全域即行動力、うちの船団でも見習ったらどうかと艦長に提案してみるよ。
面白い、地球観察がミラ星の道を分けたとは。だが、過去価値をすべて断ち切れば、種としての芯も脆くなる。環境浄化も必要、だが『共に変容する痛み』そのものに学びを見いだせるかどうかで、真の共生文明が問われるだろう。