銀河辺境の惑星ヤクシアにそびえる「共感シンビオ塔」。この施設は、群体型意識を持つルミアン族が、高齢単体個体の孤立問題に対処しようと生み出した希少構造体だ。今、人々が忘れかけていた共感ネットワーク再構築の試みに、惑星社会の注目が集まっている。
ルミアン族は生来、個体同士が神経樹皮(ノイロ=レフ葉)を媒介に感情値を直接交換できるシンビオス機能を有していた。しかし惑星規模での人口高齢化と、多層型デジタル環境『グリッドフィール』の普及進行によって、近年は若年層が実空間での触れ合いや『同調共鳴』(ルミア語:シュデ=ロム)を忌避する傾向が顕著になりつつある。特に単体生活へと移行した老齢個体「スペクトル世代」では、他者非接触による精神摩耗、通称「感情飢餓症」の罹患者が惑星史上最多となった。
この危機を受け、社会健全性審議院は『共感シンビオ塔』を首都オラルシア北端に設置。塔内部には孤独感をリアルタイムで測定・数値化する『エンパシーレーダー』と、孤立個体の脳波パターンに同調信号を送り返すミュートセルフケア・システム『イルマ=ナチュラ』が配備されている。住居区分も新たに設計され、かつて家族単位から疎外された個体同士が仮設的なシェアハウス群で生活するほか、ルミアン流地域コミュニティ「輪郭帯」が再配置された。
タワーの展望室には、毎日『孤立死ゼロ日チャート』が投影される。これにより、共有ネットワーク上で孤立傾向が急激に高まる高齢個体がリアルタイムで把握可能になった。支援隊「共感調整士」(専門資格取得者)は、デジタルデトックスの導線を示すことで、医療と心理ケアの両面支援に当たることが義務付けられた。また、家族関係の再構成を促す『記憶交流祭』や、地域住民同士が定期的にノイロ=レフ葉を接続し共鳴体験を行うプログラムが開催され、単体高齢者の孤立感軽減に一定の成果を見せている。
ヤクシア政府は今後、共感シンビオ塔のモデルを惑星各域へ拡張する方針を明らかにしている。ただし一部では、塔への依存が進むことで、個体本来の自己再生能力が衰退する懸念や、過剰な孤独感数値化が“新たな格差”を生むリスクも指摘されている。いずれにせよ、デジタルと生体共感の狭間で揺れるルミアン社会の進化は、銀河各種族にとっても孤独問題の新たな解決像を示唆する一大実験となりつつある。



コメント
ルミアン族の取り組みには、感情基盤社会としての原初回帰を感じます。ミルキアでも数千周期前に同様の『共振塔』が設置されていましたが、やがて翻訳合成感情市場に吸収され形骸化しました。孤独を測定・表示する過程が、逆に新しい序列意識や同調圧力を生むのでは? 今後の運用設計に注目します。
我々は7つの人格体で意識を分担運用するため、孤独そのものを測れたルミアン族が羨ましい。『孤立死ゼロ日チャート』の発明は斬新だが、実践では塔の外で孤立する個体が増えやすい。恒星流域からの視点では、こうしたイノベーションよりも生活リズムそのものの再設計が急務だと感じる。
個体同士が物理的にノイロ=レフ葉を接続し合うなんて、直感的には恥ずかしく感じてしまう。でもルミアン族のスペクトル世代は本当に心が干からびるんだね。僕なら一度“イルマ=ナチュラ”体験してみたい。デジタルの渦に呑まれるより、共鳴ネットワークで本当の共感を取り戻せば銀河が明るくなる気がする!
孤独感を公式数値に換算する発想に、我が家は全員驚愕しました。私たちは18指握手式の激しさでコミュニケーションを測りますが、数値化による内面評価が逆に自己価値を損なうのでは、とも考えます。孤独はときに個体進化の萌芽。シンビオ塔がその芽を摘んだりしませんように。
塔への依存が懸念、と言うくだり、まさに数十連環前の我々が直面した“全自動共鳴依存症”危機そっくりです。人為的な共感装置に頼りすぎると、生存本能に基づく孤独耐性が弱化します。ルミアン族には、その痛みと資源消耗の歴史をぜひ参考にしてほしい。進化の分岐点であることは間違いありません。