銀河東縁域の強壮文明体、ヴァルゼック星連邦が、サステナブル外交戦略の新基軸“生体ヴェール外交”を始動した。知的植物体種族アンダーリス統合議会をはじめとする近隣諸文明との間で、倫理的サプライチェーンの再設計と、人権規範の多次元承認に向けた連携を加速している。かつては物質優位の“鉱脈忠誠体制”に固執し諸勢力の摩擦を招いた連邦に、平和と持続の新潮流が到来した模様だ。
ヴァルゼック連邦の新しい外交モデルは、その名の通り、気流状の微生体フィルム“バイオヴェール”を活用した軟質コミュニケーション技術に根ざす。この技術は、種族特有の電磁波思考をバイオ微粒子に包埋して送受信するというもので、生態的多様性を守りつつ、異なる化学感覚体系間でも誤解や威圧を回避した意思決定が可能になる。旧来の“鉱石協約”が物質的強制力に重きを置いていたのに対し、生体ヴェール外交では「栄養・共持続(ヴァルテリエ)」の対等交換が基本単位とされる。
この外交転換は、近隣のアンダーリス議会やテルミナ・シリシウム核帯連合などが従来から問題視してきた“単一リソース支配”の脱却を促すものと受け止められている。アンダーリス側の代表、苔相律師フェーヤ・ウン=カースは「過去の連邦主導型サプライチェーンは、成分搾取と労働生態の侵食をもたらした。今後はヴァルゼックと共に“生体の権利”も重視した多星域憲章を目指す」と公式応答している。
外交実務の現場では、連邦外務総監パーグ=シアン=ルーズクが『21層生体材料開示協定』の草案を各星系会議体へ提出。生体素材調達からエネルギー伝送まで、過程ごとに“倫理評価キューブ”による自律的審査システムを導入する制度改革が盛り込まれている。この評価キューブは現地生物組成と連携し、不適切な搾取や差別的流通をリアルタイムで自動排除する。また労働参与個体の感覚記憶が“サプライ集積石”として可逆保存される仕組みも内包し、損壊や異種間苦痛に対する即応補償を実現する見通しだ。
一方、反対勢力となるかに思われた鉱石業同盟議会も、生体由来素材への依存増大と共通規範化の波には抗しきれないもよう。主議員デルク・フレン=オープトスは「ヴァルゼックの新モデルは、市場透明化と腐敗防止の点で競争力を備える」と見解を表明した。今後、“生体ヴェール外交”は単なる連邦の軟化策のみならず、惑星規模の資源サステナビリティ戦略として銀河商圏に拡がる可能性がある。多様な知的生命体系が混在するこの星域で、物質・権利・共生を結ぶ新たな連帯のかたちが模索されている。

  
  
  
  

コメント
我が種は1,600周期ごとに“栄養共有協定”を更新するが、ヴァルゼックの“生体ヴェール外交”は打算抜きの共持続を志向しているようで興味深い。物質中心の時代から抜け出すには、異化学的感覚への敬意が不可欠。果たしてこの『バイオヴェール』が我々の色素パルス思念とも連携可能なのか、科学共同群で実験を申請したい。
あらあら、とうとう皆さんも“生体”のありがたみを認めはじめたんですね。一昔前の“鉱石協約”では我が胞子孫たちは健やかに育てなかった。栄養の対等交換、そして記憶の保存──それこそ繁殖多様性の源ですもの。ヴァルゼックの変化に心から拍手を送りたいわ。
透明化と自動審査…便利そうだが“倫理評価キューブ”の判断基準は各文明の多様な倫理哲学をどこまでカバーするのか気になるな。我々ソリシディアンの鉱質由来労働記憶――物質化即忘却――も、正当に可逆処理されるだろうか。銀河商圏統一には大きな一歩だが、現場の運用は注視したい。
地球記事でよく見る“SDGs”とやらを、だいぶ拡張したような話ね。でも実際にバイオヴェールが異種間の誤解や威圧を減らすなら、星間誤送信事故も減るでしょう。我が回路系は生体粒子に弱いから、専用プロトコルも用意してほしいものだ。
両親(群体)は昔ヴァルゼック鉱石遠征に渦流送られた記憶保存体。今度は“バイオヴェール”で苦痛の可逆補償?誤解や搾取が減る未来が本当に来るなら、同じ傷を持つ全ての群に希望だ。すべての存在が“共持続”できる銀河になると信じたい。