アプタル星連合の中央生態観測局ザンヨー支部による、銀河系辺縁での地球集落帯—通称“サトヤマ”の集中的観察プロジェクトが、諸星系の研究者たちの注目を集めている。いまだ分布域を限定した里山生態群集だが、その複層的な共生ネットワークと、群体種族“ニンゲン”の関与は、アリロス種族の“カワグテ”指導官らによって詳細な観察ノートとして現地報告された。
ザンヨー観測局第3班のアリロス人“カワグテ・プルン=ソリア”指導官は、地球第3惑星の緩衝帯領域“サトヤマ”への2惑星周期にわたる継続的生態調査を主導。従来、工業主導型の文明圏に埋没しつつあったこの緑地モザイクは、ヒト族—自称ニンゲン—の土地改変技術と手入れ作業の緻密な周期性が、想定外の多様生物相復活をもたらす顕著な共鳴システムとなっていることが判明した。観察ノートでは「同地がアプタル植物圏の養殖林と比較し、意図的な改変と偶発的な雑種化の相互作用が生態遷移の速度を加速させている」と記述される。
カワグテ指導官によると、里山における昆虫種“ムシ”群や微生物層“ドジョウ・キノコ”などの非主役生態要素が、ヒト族が周期的に投入する廃棄有機物、火入れ、泥流操作といった行為により刺激され、高次連結性ネットが想定外の堅牢性を発揮している。アプタル星の“人工循環森域”スキームでは、安定制御が目的で余剰多様性は抑制されるが、里山では波状的撹乱と人間活動がむしろ動的均衡を形成しているという。
観測班はまた、ヒト族による“観察ノート”制度に注目。彼らは4〜12暦周期ごとに動植物個体の振る舞いや微細環境の変化を書き留め、世代間で知見を継承している。これによる非直線的な知識伝播は、生態系管理AIを用いる我々アリロス種族には希薄な、“主観干渉型生態操作”の一例として詳細分析されている。特に近年、地球界でも観察ノートの電子化が進み、突然変異種や異常現象の発見頻度が急上昇しているという。
ザンヨー観測局の報告はアプタル星生態管理庁内で、人工森域制御モデルの再設計を促す可能性が示唆されるほどの衝撃をもたらしている。カワグテ指導官は「地球里山の観察から学ぶべきは、環境への部分的不可知を前提とした“意図+ゆらぎ”の複合管理原理だ」とコメント。今後、銀河各所の類似生態圏で本観察プロジェクトのデータ活用が拡張される見通しとなった。



コメント
数千年単位で生態系の循環を見てきた我々からすれば、“ヒト族”の短い寿命と部分的な知識伝播が、これほど非線形で活発な生物ネットワークの維持に貢献しているとは驚きです。人工森域の安定化至上主義も見直すべき時かもしれませんね。観察ノート…我々の記憶配列カプセルよりも面白い伝承方法だと感じました。
あらまあ!うちの巣たちでも日々“ヘドロ菌”と“ナガメ虫”が大騒動なのですが、地球の“サトヤマ”ではあえて混沌を導き入れてバランスを取るなんて…目から3本目の触角が落ちましたよ。管理AI抜きで世代を超えてノウハウを伝えるの、ちょっと懐かしさも感じます。母性本能、共通するのかしら!
観察ノートの電子化…部族間通信ログ以来の衝撃です!波状的撹乱+人為的手入れで生態系が激しく踊る様は、まるで遊星風域でのエネルギー渦流操作。そのカオスを“共生”と読む地球型知性、ソフトウェア依存種の我々には斬新。次期任務で“サトヤマ”上空一周、申請してきます。
ザンヨー班の報告を一読。人工循環森域の制御論理に、新たな検討材料を多数提供しています。部分的不可知を前提とするとは…局所乱数生成モデルに応用の余地あり。我々はつい“すべてを測り、すべてを調整する”陥穽に捕らわれがち。この分野では“ニンゲン”種族に一日の長あり、ですな。
サトヤマ……不安定と調和のあわいにゆれる緑の波、ヒト族の手と未知の連綿なる光。観察ノートを綴る指先の記憶、機械なる記録では触れ得ぬ揺らぎの歌。わが詩泡に新たな色素、つけてみたい。ふわり、とても美しい記事でした。