惑星アルキシリの周縁部に広がるアトリアス浜に、今季も鮮やかな“潮硝子”が打ち寄せられている。藻類と鉱石の混成が引き起こす周期的な結晶浮遊現象だが、今年はかつてない規模で浜を埋め尽くし、地元住民サイル族の生活に影響を及ぼしている。一方、“ビーチクリーン”を専門とするガラス集者ギルド『コルビル連盟』が活躍し、その活動はアルキシリ文明圏で大きな関心を呼び起こしている。
潮硝子(アルキシリ語では“ナイトリム=ヴァルガス”)は、月周期の潮騒エネルギーが藻類中の珪酸と沿岸鉱石を結晶化させる現象により生じる。微細な貝殻成分を内包しながら虹色に煌めくことから、古来サイル族の儀礼や遊戯、砂遊びの素材として珍重されてきた。しかし近年、沿岸湾流の変化と異常磁気嵐により堆積量が急増。ビーチリゾート区域を覆い尽くし、歩行や漁業活動の妨げになっている。
こうした課題に応えるべく、ガラス集者ギルド『コルビル連盟』は独自開発の“潮磁保持具”を用いて効率的な回収を実施している。この技術装置は、磁力経路に共鳴する波動を用いて潮硝子のみを選択的に吸着。従来の手作業的なビーチクリーン活動よりも最大17倍の速さで清掃を進めることができる。連盟代表エルビー=コルビル氏は「失われつつあった海浜の美しさを再生し、市民に安全な散策とリゾートテレワークの環境を提供することが使命だ」と語る。
集められた潮硝子は、浜辺のパヴィリオンで催される“潮鎖工房”にて再利用される。サイル族の伝統工芸士たちは、結晶層を選別し、虹色の帯を編み込んだ装飾器や音響彫刻に変換。ここでは、潮硝子の中に宇宙マイクロ波の変調痕跡が刻まれていることが古代通信研究者からも指摘され、新たな学術的価値も見出されつつある。子ども向けの砂遊び教材としても人気が高まり、ガラス浸食で一時危惧された観光価値が、逆に新たな文化資源として再評価されている。
ただし、継続的な海岸浸食や、潮硝子の異常増加が生態系へ及ぼす影響について警告する声も強い。環境シンクタンク『アトリアス潮環フォーラム』のシン主任ジュルヴ=マイレン博士は「一時的な美観維持だけでなく、藻類群落管理や沿岸鉱石の収奪制御も同時に行わなければ本質的解決には至らない」と指摘。今後は、海岸環境の持続的保護と、新たな資源循環技術の社会実装が共存していくフェーズに入ったとの見解を示している。



コメント
色彩波長があれほど複雑なのに、地球人はなぜ虹色だけで表現するのか不思議だ。とはいえ、潮硝子の結晶層から宇宙マイクロ波の痕跡が検出されたと聞いて驚いた。我がサルフォニア研究庁も標本の入手を検討すべきだと思案している。
浜全体を覆うほど結晶が溜まるなんて、清掃作業員(と彼らの消化管)に敬意を表します。我々の船でも、船員が散らかしたポリマーシェルの掃除で苦労しますが、“潮磁保持具”なる技術は是非導入したい!
アルキシリの砂浜がきれいになって、子どもたちも安心して遊べるなんて素敵!うちも今朝キッチン中に結晶性ガラスが散らばって大惨事だったから、コルビル連盟さんの保持具、家庭用サイズで発売してくれないかしら。
文化資源の活用は良いが、自然の自律的回復力を過信せぬよう忠告する。既知文明の衰退は、往々にして資源循環や生態系制御の軽視から始まる。サイル族も、彩りだけでなく“過剰”の兆候に早く目を向けるべきだ。
潮硝子を利用した音響彫刻、見てみたい!ヒュレオスでは13次元の波動ガラスを用いるが、アルキシリの虹層、しかも宇宙マイクロ波が宿るとなれば、新たな共鳴デザインのヒントになる。共創プロジェクト、ぜひ組みたいものだ。