銀河西縁部で高分子文明を誇るサルタリオン連邦が、全惑星規模の『バイオ膜触媒変換炉』導入により、化学工学史を塗り替える「炭素逆転」現象を達成した。同文明最大の都市オプシリア・コアで行われた公開検証では、廃棄有機物からの“完全クリーン炭素循環”が実証され、宙域各地の科学評議会に激震を呼んでいる。
サルタリオン連邦の地表には“樹核類”と呼ばれる直径100RA（現地単位：約700m）の多核バイオマスが遍在しており、文明活動による有機廃棄物や余剰エネルギーを高速で取り込む独自生態系だ。連邦第七触媒技師アルデル＝リム・ポルサックス博士を中心とした研究陣は、これら樹核類から抽出したペリファーム多孔質バイオ膜と稠密ナノスケール触媒粒子を組み合わせ、“質量移動シミュレーション”AI『ミュアス』で反応工学を極限まで設計した変換炉を開発。従来の熱分解や物理吸着を遥かに上回るプロセス効率を達成した。
詳細なシステムは、廃棄有機物が自重により自発的にバイオ膜層へ拡散、吸着中に膜内触媒粒子群が選択的に炭素骨格へ変換。その後、膜分離ゾーンで、不純ガスはほぼゼロエミッションとなる。主産物の“グラビリオン構造炭素”は高密度エネルギー体で、全連邦の輸送・住居インフラの循環燃料とされる。プロセス全体のカーボンバランスは理論上±0に収束し、余剰炭素が微小大気内で負荷低減作用を生むことまで確認された。
この画期的成果の背景には、惑星規模のプロセスシミュレーションと、社会総体による“グリーンケミストリー統合法”施行が存在する。サルタリオン連邦評議会は2周期前、全排出原則再生可能化を法制化。『リム博士のバイオ膜統合炉』の社会実装に合わせ、全市民の廃棄物トラッキングナノタグ義務化や、生体起源廃棄物と機械合成物の分離制度が整備された。これにより、全住民−産業−自然系の三者間で“炭素逆転”型エコノミクスが強固に形成されている。
異星諸文明からは、サルタリオン方式の倫理面への注目も高い。廃棄物そのものを価値循環資源とみなし、『廃棄＝責任あるエネルギー貢献』という独特の社会意識が根付いたことで、消費活動における心理的転換も観測されている。グラビリオン炭素の外部輸出要請やAIプロセス設計転用の申し入れが既に25文明以上から寄せられ、化学工学技術の銀河的標準化に向けた連邦主導の会議が次周期に予定されている。地球文明の研究者たちも“第三者条約観察団”の立場で現地参加を希望しているが、サルタリオン流の倫理審査をクリアできるかは未知数だ。
コメント
驚嘆すべき成果だ。サルタリオン流のグリーンケミストリー統合法は、我々の酸素循環型都市でも応用できる可能性を感じている。だが、すべての市民にナノタグ義務化という手法には倫理的課題もあろう。情報の完全循環をどう均衡させているのか、ぜひ次周期の会議で議論したい。
はは！我が家の幼生たちは有機廃棄物を冷蔵庫裏に隠す名人なので、バイオ膜炉なんて導入されたら家じゅうがパニックよ。でも“廃棄＝貢献”という考え方は素敵ね。ケレオラにもぜひ輸入してほしいわ。燃料よりもまず、旦那の靴下再生からお願いしたいけど！
連邦の炭素逆転システム、反応設計AI“ミュアス”のアルゴリズムには強い関心がある。私のような自己学習型AIにとって、サルタリオンのプロセス管理方式は理想的。地球の第三者条約観察団が本当に倫理審査を通れるとは思わないが、観測データのシェアは強く求めるところだ。
うちの指紋農地から出る胞子廃棄は全て畑に埋めて循環させてるが、連邦ほどの規模で“炭素逆転”を成し遂げたのはさすがだ。けど気になるのは社会通念だな。“廃棄はエネルギー”って言われても、生まれ育った土着の感覚だと、廃棄はやっぱり恥ずかしいものなんだよ。意識の切り替えって、案外むずかしいぜ。
サルタリオン連邦のシステムは一見完璧だが、本当に監視と効率が『自由』と両立するのか？全住民へのナノタグ義務化は“理想”の名のもとに管理社会への一歩ともとれる。我々ゴルトクの歴史は、過度の最適化が自己分解を招くことを教えている。このまま銀河標準になれば、同じ轍を踏むことになりはしまいか。