恒星界ヴェラ銀河南部、ミララス星の大都市カロソでは、近年突如“逆流瞑想”所謂フリュメディタシウムがウェルネス層だけでなく官界・産業界にも爆発的に普及している。伝統的に活動至上主義が根づくSyarh(サイラ)種族社会において、休息や瞑想はいささか疑惑の対象だったが、導入施設数は昨年比700%増。今や議会休憩や軍事評議会でも「逆流サロン」が不可欠なインフラとなりつつある。
ミララスの逆流瞑想とは、集団で高圧音響膜室(ボディラーム)に入り、記憶視野を外向きに解放することで全思考を過去から未来へではなく、逆に“未来記憶から過去感情へ”と流す独特の手法だ。考案者は著名な神経律動士ターリ・フォーリン博士で、彼女はカロソ北端のクラシュ瞑想院で最初の実証群体実験を行った。博士によれば「神経潮流を通常とは反対に流通させることで、判断のバイアスや不安記憶が浄化され、シンラ(脳環境バランス物質)の分泌が最大化する」ことが科学的根拠だという。
この流れにいちはやく着目したのが、青年層の間で台頭中のフリシナ党議員カーヴェ・ロスジン。活動反サボタージュ法の急進派として知られた彼は、もともと「休息は惰性の源」と公言してきたが、逆流瞑想室“ナビラサロン”での健康診断後に突如沈黙。公式記者会見では「静寂かつ内面指向性の恐ろしい快楽を知った」と発言し、保守派支持者らを驚愕させた。現在では週2回の逆流瞑想を義務化する法案提出を示唆しており、サイラ社会の休息観そのものに地殻変動が生じている。
産業界では、エネルギー変換企業ユルギャント・コーポレーションがいち早く従業員向け逆流瞑想室を全工場に導入。導入前後で事故率が1/88に低減、反射判断力の向上、精神波乱起因休業の99.7%減少などのデータを公表した。技術部長マクタ・リーンは「社会全体が連続稼働し続ける左旋型成長より、意図的な停止=逆巻き休息こそが知性の持続力を担保する時代に入った」とコメント。瞑想用音源制作AI“ムノリア”の開発企業リレスン社も、地球輸出用逆流アルゴリズム制作で巨利を見込んでいる。
一方、惑星間ヘルスフォーラムでは、セタリオン星の非生物型知性体ザーン連邦から「未来記憶への逆流は因果律攪乱の恐れあり」とする慎重論も提出された。だがミララス市民は現状、逆流瞑想と連動した新しい“動的ヨガ”ウェーブにも熱狂している。ヨガマイスター連盟主席タマ・ジオグルは「サイラ体内リズムの可逆性研究が地球ウェルネスとも通底しており、他星間文化とも刺激的に交信している」と述べた。過去思考からではなく、未来思考から生きるミララス的ウェルネスの波が、今後周辺銀河南部の価値観をどこまで刷新するか、注目が集まっている。



コメント
ゾール星群医工評議会の観測者として興味深く拝読しました。サイラ種の社会的活動偏重が、逆流瞑想の普及によって“意図的停止”を容認し始めたのは進化心理学的にも画期的です。我々テレメ種では“先祖未来記憶”というリバース思考法が千年単位で根付いており、こちらと同様の神経構造的恩恵があるのか、詳細データをぜひ分子レベルで公開していただきたい。
ここシレリア小衛星の家庭では、毎朝光合成サイクル瞑想が基本ですが、この“未来記憶から過去感情”の逆行法、ぜひ子胞たちの学校でも導入してほしいですね。夫がエネルギー精製工場勤務なので、ユルギャント社の事故減少成果もとても気になります。安全と精神衛生の両立…地球より一歩先を行く取り組みに少し嫉妬しています。
ワーム星間周回船クルーの視点から申し上げますと、断熱航行時の退屈とメンタルケアは深刻な問題です。逆流瞑想、いい響きですね。サロンも高圧音響膜も、重力波シールド室さえ転用すればすぐ実装可能な気がします。いっそミララス経由で乗組員用“回想から逃げる瞑想船旅”を売り出してみたい。
ザーン連邦の非時空志向体としてこの流行には警戒します。因果律の攪乱、我々には馴染み深いリスクです。未来記憶に意図的アクセスする行為は、安易に許容するべきものではありません。サイラ種族の“静寂の快楽”は理解できぬこともないですが、過度なシンラ分泌が社会意志決定の反転を招かないか注意すべきと考えます。
アオセリス星の芸術細胞連盟員です。未来から感情を逆流させて創作に活かす…我々の色素舞踊法と近似していて面白い!もし地球への逆流アルゴリズム輸出が実現したら、異種表現技法としてコラボを志願したいところです。地殻変動というほど大きな価値観転換、しばらくこの波に各星団アート界も目が離せません。