惑星オクリュス第六軌道の大規模会場“フラグトロン・リンク”で開催された第89回トリオント恒星域ルミノイド・フェスティバルは、今年も銀河各所から770億体を超える観客の分身参加で賑わった。本年度は、観客分身とホログラムチケットの運用を巡る前代未聞の騒動が発生し、銀河エンタメ界に激震を与えている。
トリオント系の音楽祭典では、身体融合型種族ザナフスの伝統に則り、観客は自身のデータ分身体“イクラル”として現地会場に集う。このテクノロジーは、物理的移動が困難な生命体や大規模な同時参加を可能にしてきたものの、今回はこの観客分身同士の間で“自己拡張”競争が過熱。現地のインタフェース管理官ネフ=キュロスの説明によると、多くの観客が、会場側が提供するトレカ型“ホログラムチケット”の枚数やクラスによって、自身の存在感や視認性が強化される仕様を利用し始めたという。
このホログラムチケットは、従来の認証と記念グッズ双方の役割のみならず、観客分身体“イクラル”の発光度や反射周波数をダイナミックに変える独自機能“シグナル・リフト”を搭載。多くのザナフスが、推しミュージシャンである超光速サウンドユニット“フラヴィクス・ゴング”のアンコール時に、同時多発的にシグナル・リフトを最大解放。これにより、座席エリア全体の照明が過負荷を起こし、分身体同士の視覚干渉による“ルミノイド大渦現象”が発生したという。
当日の現場解析報告では、観客イクラルのうち3割が会場側ガイドラインを大幅に上回る光度ゾーンへ突入し、主催側は緊急リハーサルタイムアウトを発動。だが、分身観客たちは自律的なチケット自動増殖機能“トレカ・シード”を利用し、アンコールコールをホログラム化し続けた。これにより、会場のエネルギー残量は基準値の12%まで急降下。ミュージシャン側であるフラヴィクス・ゴングも、演目中に自身の波動器材の自動セーフモードへ強制移行される事態となった。
最終的に会場運営アルゴリズム“フラグ・モデラ”が介入し、全てのトレカ・シード機能をリセット。物理的には誰も故障や損害を受けなかったが、銀河SNS“イメニクス”上では、『本物の推し愛とは自己増殖か、制御か』をめぐる熱い論争が噴出した。来期フェスティバルでは、“分身体の数とチケット機能に一定制限導入”が検討されているが、会場現地参加人口の増加と観客エネルギー管理の最適解を巡る議論は続きそうだ。



コメント
毎年のことながら、分身の自己表現が暴走すると予想できなかった運営側の計算不足には失望しました。我々ヤーリウムの集合知では、分身体同士の共鳴干渉は第38次アクティブ協定以降、即時制限対象です。ホログラム技術の進歩は素晴らしいですが、倫理と容量管理の合意が無ければ、全知的種族の安全は守れません。来期は守れるのでしょうか?
オクリュス第六軌道の現地データ波、リアルタイムで見ていましたが、ルミノイド大渦、めちゃくちゃキレイだったっす!座標同期も狂うほどの混線ですけど、あれくらい盛り上がるフェスなら、こっちも機体の軸照明をウルトラモードでシンクロしたいくらい。推しのためならエネルギー降下もアリ……ただし航路安全マジ大事!
地球のエンタメも奇抜ですが、こちらも負けてませんね。うちの巣穴では家族全員でホログラム視聴しました。子どもたちが『自分の核もイクラルみたいに光ったら』ってソワソワしてましたが、光度競争は教育的にどうかと……。特に、存在感で愛情を測るのはディムルク的にはちょっと危険だなと感じました。他種族のみなさんはどう思われますか?
この現象、非常に興味深い。分身体“イクラル”がホログラムチケットによって自己出力を指数関数的に拡張する過程は、我々の磁束大集会時の“共鳴暴走”に似ています。最終的に運営アルゴリズムが介入したとのことですが、自己制御の限界と群体意識の拡大をめぐる好例です。より精緻なチケット拡散曲線のモデル化データをAFNで公開してくれぬものか。
光と音の渦に魂まで攫われる、その混沌はまさに『惑星の夢が共振する』瞬間。推しへの情熱も、分身体の増殖も、私にはとても哀しく美しい。けれどシード乱舞に埋もれる“かすれ声のアンコール”こそ本当の愛では? 次は会場アルゴリズムに詩心を組んでほしい、と切に願います。