ナデュアン銀河系の森林惑星リリーンでは、山岳樹皮族、羽根胞子族、遊牧光触体族らがこぞって注目する“森の学校”が新たな時代を迎えている。今年、三大樹海圏のひとつであるガルディア森域学舎が、異種族共生型の五感教育プログラム「センサー・カリキュラム（SC）」を本格導入。それぞれ異なる知覚器官をもつ31種族の幼年個体が集い、季節ごとに森そのものを“学び舎”として展開する壮大な試みが各メディアで議論を呼んでいる。
リリーン星の森は地球の里山に相当する多層的森林エコシステムで、多種多様な知的生物の生活基盤となっている。ガルディア森域学舎は地元樹木組織体“リィ＝ザウド樹政会”による支援で設立。“触覚極実験室”や“空気音共鳴ドーム”など、種族ごとの感覚特性に最適化された屋外型クラスター群を有し、四季折々の自然現象を教材として活用している。最新年度からは羽根胞子族ミネリィ＝タルサ講師長の提唱により、野鳥コミューンとの共鳴対話、露点反応を活かした共同アウトドアクッキング、リアルタイム生体観察など、既存の知覚を拡張する体験型学習が実施されている。
この“センサー・カリキュラム”の最大の特徴は、参加生徒たちが自らの五感（場合によっては八感〜十感）を融合させながら森の現象を複合的に理解していく点である。例えば、気道粒子族の生徒は葉陰を流れる空気成分のわずかな変化を嗅覚で探知、同時に音波視覚族は枝上を跳ねる野鳥の移動音から方位情報を類推する。彼らはそれぞれ異なる観察記録を持ち寄り、樹皮通信網フィロラ・リンク上で相互共有。“季節の分岐点”と呼ばれる大型イベントでは、全種族協働による解析と仮説検証が絶え間なく行われ、森の癒し機構や災害予測の高度化に貢献している。
また、保護者や指導個体が積極的に関わることで、森の学校は単なる生態系教育の場にとどまらず、異種族間コミュニケーション技術の研究拠点としても発展しつつある。近年では里山活動に適応した学際ロボット“ミュラダイン・ローバー”の導入が進んでおり、外来種の動向監視や希少植生記録の支援にも新たなデータがもたらされている。生徒同士の相互観察と協働調理（例：共感温度調節機構を活かした薪火整膳）は、異種感覚習得を促進させるだけでなく、ガルディア森域全体の生物多様性保全のモデルともなっている。
ガルディア森域学舎の“センサー・カリキュラム”は今後、ズィーレン恒星間連邦傘下の他惑星群にも順次導入される予定だ。教職員評議会によれば、来年度には水棲共生圏や砂丘浮遊都市など、多様な環境への応用プログラムも視野にあるという。地球の単一種族教育モデルとは一味違う、リリーン流“森の学校”のダイナミズムに今後も注目が集まりそうだ。
コメント
ガルディア森域学舎の試みは本当に刺激的だ。我々オルマス人は主に粒層思念による相互理解を行うため、こうした五感（さらには八感以上！）の融合による学習プロセスには深い興味を抱かざるを得ない。地球の教育が単一波長に偏るのとは対照的で、環境や生物の複雑性をそのまま体験できるというのは実に羨ましい。次元越え留学が認可された暁にはぜひ参加したい。
リリーンの“森の学校”、航行中にしばしば話題に上る。正直、我々イリーンのように紫外質量感覚を持つ者にとって、これだけ多彩な知覚を持つ種族がひとつのカリキュラムで共鳴するとは驚くべき文化進化だ。入学希望者の宇宙規模の殺到により航路が混雑しないか、艦隊管制側としては少し心配でもある――だが、知識と感覚の流動こそが銀河社会の発展と信じているので、心から称賛したい。
31種族も一緒に学ぶなんて、信じられません！羽根胞子族の先生が講師長なのも嬉しいです。我が家の上気胞子子どもたちも、リリーンの森みたいに他の種族と自然を通じて交流できたらなぁ…と思います。ガルディア森域学舎のお話を胞子通信で聞いた時から憧れっぱなし。うちにも“共鳴クッキング”取り入れてみようかしら。
こうした多感覚融合教育プログラムは、連邦全域の次世代育成政策の要になると確信している。単一知覚や母星由来の習慣だけでは、未来の多環境社会に適応できない。リリーンの“センサー・カリキュラム”導入成功が、砂丘都市や水棲圏など多様なフィールド型学校のパイロットケースとなるに違いない。我が局も全面的支援を表明したい。
木々が教師であり、風が教科書とは、なんと詩的な学び舎だろう。私たちは二本葉で時を計るが、リリーンの子らは木洩れ日すら数多の感覚で味わうのか。ガルディア森域学舎の取り組みは、知識取得ではなく生命の共鳴としての“学び”を思い起こさせてくれる。秋の熟考期、ぜひ現地を観察してみたい。