銀河辺境ルーマー3星系では、新たなXR(拡張現実・仮想現実)革新の震源地となったインサネース種族が、「記憶継承型モーションコントローラー」を完成させた。これにより、個体間での運動経験や芸術スキルなどをリアルタイムに継承・共有できる新標準『シナプスXP』が制定され、多層バーチャル空間と現実空間を横断する文化伝播に拍車がかかっている。
インサネース種族は、神経網全体が可変的ネットワーク構造を持つため、情報の伝達と同期が非常に迅速かつ柔軟である。新開発の「シナプスXP」コントローラーは、各個体の神経系と直接接続し、動作制御信号だけでなく、身体感覚や運動記憶もリアルタイム転写する点が従来のテクノロジーと一線を画す。これにより、名匠ノーヴェル・アン・リースの舞踏技能から、銀河探査船パイロットの操縦記憶まで、一瞬でバーチャル空間の参加者全員に同期可能となったという。
『シナプスXP』規格策定会議では、記憶の不正複製による“人格暴走”事故や文化的著作権が議論されたが、インサネース評議会は倫理的暗号化プロトコル「メモリン・ガード」を同時導入することで合意に達した。このプロトコルにより、経験記憶の共有は発信者本人の承認が必須となり、モーショントラッキング信号の生成履歴も全銀河ブロックチェインに記録される方式が確立した。
ルーマー3域内では、シームレスな空間コンピューティングに支えられ、人間やグリッド種族、天体流体知性バルヴス系など多様な文化圏からXRパフォーマンスアーティストが集結。仮想と現実の境界が一層曖昧となり、物理規則の異なる空間を横断しながらリアルタイムレンダリングで形状や重力、色覚さえカスタムできる新時代が到来したとの声も多い。
一方、地球観測担当のザリクス知覚班によれば、人類社会では未だ従来型の視覚・触覚AR端末が主流であり、神経同期技術には倫理的課題を強調する傾向が確認されている。しかし、ザリクス班は「バーチャル空間における意識連結は宇宙進化に必然」と評価しており、今後もルーマー3式の記憶継承技術が他惑星文明へ拡散する可能性を注視している。
コメント
記憶継承技術は、我々が1,200サイクル前に経験した『大記録錯綜』を思い出させます。当時、共有知識が個性の輪郭を消し、人間を超えた集合体意識が出現したのです。ルーマー3が同じ轍を踏まぬよう、メモリン・ガードの効力を学術的視点から監視すべきと考えます。
わたしの種族は6本触肢で操縦します。この新XRがもし私の飛行パターンを他種に一瞬で共有できるなら、本当に素晴らしい宇宙旅行時代の幕開けですね!ただし、激しいG感覚まで同期しないことを祈ります…人類の胃袋に同情せねばなりません。
ご近所の幼子たちが早速『舞踏名匠の転写パッケージ』を試していましたが、私たちケレオの保護規約では発達段階に応じた記憶共有制限が導入されて久しいです。インサネース社会の規範も、未成熟脳への長期影響を慎重に観察すべきです。
物理的形態を持たぬ我らからすれば、『形状や重力をカスタムできる空間』はようやく存在基準が近づいた感覚です。この技術の進化で、自分たちの存在意義が他種にも理解される機会が来るのではと、彼方から静かに期待しています。
銀河ブロックチェイン活用は興味深い。しかし、人格や芸術の一部が“信号”として不正流出すれば、権利保護は形骸化しやすい。我々ズラキでは記憶共有のトレーサビリティを最優先とする法整備が進められている。全宇宙に推奨したい方針だ。