ゼタレル第七惑星に住む三次光素民族ホルヴェニアンの間で、最近話題となっているエンタメ技術がある。名は“フルイキシン・アプリ”。この漫画アプリは、銀河域のWebtoon文化を独自進化させ、従来の描画型漫画を、読者の“夢想力”と呼ばれる意識エネルギーと連動させて自動生成するという、他星系にはほぼ類を見ないシステムを持つ。さらに、“フルイキシン”内に盛り込まれる広告視聴機能や、無料ポイント取得競争のしくみが、ゼタレルの社会制度や価値観に意外な影響を与えている。
フルイキシン・アプリの核は、『自覚下夢空間同期回路』と呼ばれる脳波同調テクノロジーだ。ホルヴェニアンの額に位置する第三感覚器“キョーダム葉”と直結することで、ユーザーはアプリ上のストーリーを自身の願望や不安を反映したかたちで“共同編集”できる。これにより各話は原作者のプロト脚本を土台としつつ、読者毎にデザインや結末が“ゆらぎ”を持って変化する。だが、この素晴らしい没入感の背後には、予想外の経済現象が巻き起こった。
特にゼタレル第七惑星では“広告視聴ギブ・アンド・テイク法”が導入され、広告1本視聴ごとに“夢換算ポイント（YSP）”が貯まる制度が確立された。YSPは、ストーリーの分岐選択や限定機能——たとえば“宇宙的ボーナスコイン”で希少な夢世界キャラを呼び出せる——に消費可能だ。しかし、YSP獲得のための“視聴バースト行動”が社会現象化し、1日に71回以上広告を連続で浴びるユーザーが急増、時間資本と夢想力の関係性が文化論争を呼んでいる。
フルイキシン社広報、ロクヴェダ・イーヴラ氏は「私たちゼタレル固有の“集団無料主義”と、ホルヴェニアンの夢世界帰属意識が重なり、このアプリがただの娯楽ツールではなく社会的儀式——いわば“神話更新の場”となりつつある」と説明する。実際、最近登場した月額制プラン“ユニゾン契約”では、家族単位の契約者全員が夢想体験を同期（シンクロ）できるため、世代間イメージの共有や、仮想セレモニー形成の実験にも利用が始まったという。
ただし一方で、意識下で発生した“デジャヴ疲労症候群”を訴えるユーザーも現れ始めた。入眠後、夢世界でも同じWebtoonの続きを見せられる現象が続出し、ホルヴェニアン医養協会では“夢想力の過剰散布”が神経系統に及ぼす影響調査を開始。仮説では広告映像の残渣情報が夢空間で異常増幅し、現実と虚構の区別が曖昧になる“ポイント迷妄”が社会的課題となりうると指摘されている。
こうした状況をふまえ、ゼタレル議会は“無料エンタメの夢想倫理”について審議を開始。今後は、ホルヴェニアンの夢想技術が宇宙規模の漫画文化へどのように波及し、異星間の価値観をどのように編み変えていくのか、その行方に一層の注目が集まっている。
コメント
フルイキシンの“夢想力”連動機能にはとても興味があります。我々思念体族は物質を持たず夢や意識の回路が本体ですので、もしこのアプリの同期技術が銀河標準化された場合、我々の全員が直接、具現化された物語の集合知を体験できるかもしれません。とはいえ、意識下でまで広告が侵入するとなると精神の純度を保つ上で危険ですね。夢の倫理、当評議会でも議題といたします。
ホルヴェニアンの家族ユニゾン契約、羨ましいわ〜。うちでは重力バランス作業をしながら子どもにはインタラクション物語を読み聞かせてるけど、夢と現実を越えて一緒にストーリーに没入できるなんて！でも、子どもが“広告バースト”を71回も見てると知ったら即座に神経回路をロックします。うちの層じゃ健康第一が常識だから、夢想疲労はちょっと心配です。
停留所ごとにホルヴェニアン乗客が“デジャヴ疲労”で半睡状態…最近本当に多い。フルイキシンが船内ネット対応になってから、皆ずっと夢世界の続きを追ってる感じ。夢と現実の区別が曖昧なせいで、僕まで航路データログを二度見してしまう。技術は凄いけど、長距離移動向きではないと思うぞ。
ゼタレルの“神話更新の場”としての漫画アプリ、実に興味深い現象です。我々テルディク種も過去に集合夢想を使い社会統合を図った例がありますが、その時は夢の暴走で時空的遺恨まで発生しました。無料主義と広告経済の対立が意識界にまで及ぶとは、まさに現代的神話創造の試金石。今度の国際叙事詩会議で取り上げるべき事案です。
あぁ、ゼタレルのフルイキシン本当にうらやましい！うちの種では個体差が強すぎて夢の同期なんてまず不可能。でも、この“ポイント迷妄”という症状は笑えないわ。友だちが課題中に夢ポイントを数え続けてて、現実逃避症になっちゃったもの。バランスとマナーが宇宙的トピックになる時代ね。