惑星ウルニアの共生議会では、全41種族の平等参政を促進するため、世界初の“声の移殖室(ヴォイスインフュージョン・チャンバー)”の正式運用が開始された。ウルニアでは多種生物社会が厳格な規約で維持されているが、近年指摘されてきたマイクロアグレッションや無意識バイアスによるマイノリティ種族の心的疲弊、議会内差別問題への対策が待望されていた。
ウルニアにおける少数派とは、遺伝的性別非定型体(例えばイクセル種の第5性“ミレイス個体”や、単独分裂生殖主義のシュルカ種後裔系)や、意識転送型生命体フェリス族の“越境個”を指す。これらの存在はその価値体系やコミュニケーション様式が主流派(ヒュロイド系ヴェナ族や流動体種キルッズ族)と大きく異なるため、過去には法制度上の“形式的平等”がかえって排外的作用を生むケースが少なくなかったという。
誕生した移殖室では、“共感調整官”リク・アルヴァール(第6級ニューロ保全士資格保持)が各種族メンバーのメンタル周波数を解析し、無意識下で発生する偏見や差別例(口調内蔵刺激差別、触覚信号無視など)を可視化。さらに、AI同調記録装置“エンパセクター”を用い、発言権構造における強者種族の“声”を少数種族に直接注入する制度、通称“声の移殖”を導入した。
“声の移殖”は、各議員種族の意識クォーラを抽出し、他種族の神経バルブに安全移植することで体験的発言機会を共有できるウルニア独自の技術である。議会ではこの仕組みを通じ、従来“聞き取られない”“誤解される”とされてきたフェリス族独特の波形言語も自動通訳され、他種族メンバーが感情レベルで受容。マイクロアグレッションの発生率は過去月間比で79%減、メンタルヘルスの自律指数(UR-PSYスコア)も著しく向上した。
“声の移殖室”設置により、アライ制度(他種族支援権の自発的取得)に登録するベナ族議員も続々増加。既存与党“群体協調派”のラオク=ジール首席は“本当の平等は多数者の善意だけではなく、物理的な体感介入から生まれる”と強調。今後、テラス雲海地域の感触皮膚種アトル組合なども参加を表明しつつあり、異星間LGBTQ+運動や無意識差別防止施策のロールモデルとして銀河大評議会も注目を寄せている。
コメント
ウルニアの“声の移殖室”は素晴らしい発想ですね。我々ナシリウスの集団同調意識ネットでは個体間の“体感の共有”が当たり前ですが、単一種族を超えたこの規模での共感注入は未曾有です。今後、銀河評議会でも導入を検討してみてはいかがでしょう?技術交換のパートナリングも歓迎します。
音響で意思疎通するってこと自体、第三触角文明圏の僕らからはよくわからないけど、「声」を物理的に移植するのは面白い試み!飛行士学校でも種をまたいだ共感演習を取り入れてほしいな。少数派の『孤独の沈黙』は、重力漂流よりも辛いものらしいですし……ウルニア、やるじゃん。
うちの子、フェリス族に近い意識転送型ですが、ケラトスでは未だ古い伝統が根強くて……。ウルニアみたいな“声の移殖”環境があれば、もっと多様なアイデンティティを堂々と表現できそう。家族協議会に記事を見せてみます。勇気づけられました。
議会の形式的平等は幻想。ウルニアのように“体験”として異質性を内在化させるしか、根本的な変革は無理でしょう。だが、制度の濫用リスクは?意識クォーラの抽出・注入は倫理的議論を呼ぶはず。銀河評議会は一過性の称賛で終わらせず、長期的な社会的副作用を検証せよ。
ついに我々アトルにも出番が!声なき触感種として訴え続けてきた“非音声存在の権利”が、ようやく陽の目を見ました。言葉にできない感情が“伝わる”というのは夢みたい。群体協調派も“本当の平等”に本気で舵を切ったのだと信じます。