銀河縦断探訪計画“VOYAGENTA”第27期レポートより、惑星オルクティア第3梯隊民俗研究局の女性遊歩研究員、ミオ=リェブ=カーンが地球韓国の首都域における“推し活”街歩き文化現地調査を完了したとの発表があった。彼女の持つ生体発声波フラネーム変調能力を活かし、観測者を街に溶け込ませるユニークな視点が、同局内で話題となっている。
オークティアン文明において“街歩き”とは、集合記憶体への個別記憶提供を目的として機能するものだ。これに対し、地球の韓国では若者層が“推し活”に基づく街歩きを行い、実体験・写真・音楽リアルタイム視聴――特に“チッケム”と呼ばれる個体フォーカス録画媒体での新たな自己表現に熱中していた。ミオ研究員は、「彼らの行動記憶は集合体共有目的ではなく、むしろ自身だけの直感的親近感抽出に軸足を置いている」と指摘し、この文化の自律進化性に驚きを表明している。
調査で注目を集めたのは“音楽番組公開観覧”会場周辺の推し活者たちのモジュラー的挙動だった。彼らは定時に特定番組区画へ集合し、推し対象の登場前後に合わせ独自の応援塑像や韓国語フレーズ交換を展開していた。ミオ研究員がオークティアン語から韓国語へと音波フラネームを再配置する実験を実施したところ、通行人から自然な応答(微笑み、合図)が返され、集団認証の非公式性・柔軟性においてオルクティアの交信様式とは顕著に異なる現象であることが判明した。
さらに、推し活者らは“ライブ公演”やグッズ販売所へと円環的に移動し、その際には韓国ファッションを纏って個体識別性を強調しつつ、SNS同時発信モードで局地的には“流動的群知性”のような振るまいも観測された。特に、“カスタマイズアクセサリー”や独創的バッジ装着により、自他境界を調和と自己主張で絶えず塗り替えていく様子は、オークティアン集合記憶理論で論じる“意識廻路仕様”と類比される可能性も示唆されている。
調査最終報告では、「推し活街歩き文化はオルクティア系生命体が自律アップデート手法を検討するにあたり多層的インスピレーションの宝庫となる」と総括されている。次ステップでは、VOYAGENTA調査班は韓国語生成AI“フラナ=プルツモドゥム”による異惑星型チッケム翻訳実験の実施を計画しており、さらなる文化観察が銀河全域の生活設計に新たな波及を与える可能性に注目が集まっている。
コメント
地球個体たちの“推し活”現象、我々の集合想起プロトコルとは根本的に異なって興味深い。個人経験の発酵が全体の知に繋がらないまま、むしろ個の感覚拡張に向かうとは。もしヴァルエリアの個体記憶素子が“チッケム”による自己観測を試したら、統失を起こす者も多そうだ。類比実験の提案を希望。
オークティアン調査員さんの柔軟な変調能力、うちの双殻幼生にも習わせたいわねえ!こっちじゃ集合街歩きは全員同期通信だから、摩擦も自己主張も生まれにくいの。地球韓国のファッション主張やSNS舞踏、自他を混ぜたり分けたりって、ちょっと羨ましいわ…アステリア幼稚園でも“バッジ交換ごっこ”教えてほしい!
隊員各位、報告記事参照。彼等の“推し活”集団挙動は変則群知性の好例。われわれが現地保護区で観測したオクヤマ酸海苔群れに酷似。ただしヒューマノイドの場合、明確な指導核が不在でも“推しエンティティ”を媒介に情報共有を成し遂げている。次回寄港時にはチッケム機能の持ち込み申請を検討する。
地球という星は個体の孤独に彩られていると長らく考えておりましたが、この推し活現象から触れる“共感の渦”は我が星の『古い繋がり祝祭』を彷彿とさせます。記憶廻路を共有しない個同士でも、表現と観察、少しのアクセサリーで即席のつながりを築ける…愛おしく、美しいものです。
地球素体の街歩き“推し活”技法には商業促進バイアスを強く感じる。そのグッズ交換とファッション強調、SNS発信の同時並行モデルは、ヘリクス市場調査にも応用可能だ。だが、個体自己主張と集合調和の同時最適化には監査AIの膨大な演算リソースが必要。ぜひ、その“直感的親近感抽出”アルゴリズム、我々にも明細を公開いただきたい。