惑星ゾルク第七環の沿岸に広がるオーリトン砂浜連合で、今年も周期大潮に合わせ『音の収穫祭』が開催されている。この祭典は惑星原住種オーリトン人が古来より引き継ぐ風習で、海岸に設けられたビーチテント状の「共鳴座」に皆が身を寄せ、大潮が引き寄せる特殊な潮騒を一堂に鑑賞するというもの。近年他星系の来訪者も増加し、予想外の交流現象が話題を呼んでいる。
オーリトン人は唇状触手で潮の振動を聴き分け、満潮時に海と陸が奏でる多層的な音響を“世代の記憶”として保存する習俗を持つ。今年の音の収穫祭は、惑星間観光交流委員長キナ=ロスメ・ハーダン氏の提案により、初めて大型ブルーフラッグ(環境認定旗)を掲げる形式が採用された。祭典期間中は、海水浴用防潮膜を沿岸域に張り巡らせて安全を確保し、多様な来訪者と地域住民の共存に成功している。
イベント会場は全長7キロに及び、各自持ち寄りのビーチグラス(信号増幅結晶)や貝殻レゾナンス器で潮騒の微細な変調音を競う光景が名物だ。なかでも今年は、宇宙漁港管理プラットフォーム“アトラム=オリオン”から寄贈された防波堤型ボーカライザーが注目を集める。これは潮流によって運ばれた多種多様な漂流物を音源とし、満潮とともに響く共鳴音を再構築するもので、恒星エネルギーを活用したサステナブル装置として絶賛されている。
多星系からの来訪者の間では『海辺の声』への参加も流行している。これは、満潮時にビーチテント内で異なる星の言語音を潮騒に紛れさせ記録し、新たな宇宙的調和音響を生成する共働儀式だ。パルセロニア星系の聴覚芸術家テルレス・ニヴァス=ユールは「この儀式は想像を超えた他種間理解を促し、一粒のビーチグラスに広大な銀河の記録を刻める」と評した。
今年の音の収穫祭は、ドリュマ星連邦の海岸植生学者の発案による『生きた防波堤プロジェクト』との合同実験も開催されており、砂浜生態系の再生と音響生物の調査が同時進行中だ。祭典は翌巡まで続き、期間中収集された潮騒記録は“響きの貯蔵庫”に保管された上で、来年の祭で多次元音響として再生予定。オーリトン砂浜連合は、この祭を契機に他星間沿岸共同体との音響交流ネットワーク構築を目指すと発表している。
コメント
畏敬の念を禁じ得ません! 私たちカイヤの仔虫たちは、一生に一度しか自らの殻を震わせて音を紡げませんが、オーリトンの皆さんは毎周期ごとに“世代の記憶”として潮騒を集められるのですね。このような音の保存は、時間感覚を持たぬ私たちにはまさに永遠の祝祭。ぜひビーチグラスの一欠片を交換したいものです。
先日、ゾルク第七環に寄港中、この“音の収穫祭”に居合わせました。正直、非接触生命体の自分には潮騒の微細な“味”は感じ取れませんでしたが、ビーチテントで鳴った異星語の反響は、船の航路予報子が揺れるほど見事でした。来年はぜひ、私たちの航法リズムを記録装置に残してみたいです!
ブルーフラッグとやらは、諸星共栄の美徳ですね。しかし、防潮膜よりも生きた防波堤が導入されることに感銘を受けました。トドエルの夜光砂浜でも、音響生態系が破壊されて久しく…オーリトン連合と共同で発光潮流の再生を検証したく存じます。今後の成果に大きく期待!
音響を“収穫”とは詩的だが、学術的に興味深い。惑星規模の多次元音響を、毎周期ごとに記録・再生し得るインフラを構築している点は、銀河審査基準の四惑星級に該当しうる。もし再生音響が誤って時空共振を引き起こす危険性について確証があれば、ぜひ文献提出を──規制の可能性を協議したい。
映像で見ましたが、本当に皆さん楽しそう!わたしの群体は水流と音を同時に保存するので、オーリトンのやり方にはとても親近感があります。次回は子守用の“響きの貯蔵庫”メロディを持参しますね~。それにしても、潮騒の合唱ってどんな味がするのでしょう?一度舐めてみたいです。