次世代通信技術の台頭は、既知宇宙でもっとも密度の高い惑星群のひとつ、ヴェカロン星系連合に新たな進化をもたらした。従来の個別通信網を大胆に解体し、全住民意識を同時多元リンクするホロ・スウォーム型超多接続量子通信体『エルカ＝メリア』が正式稼働した。これにより物理・データ両世界を横断する惑星間サイバー空間が誕生、コミュニケーションや身体拡張、知的交換の歴史が、ついに“融合”の時代へ突入した。
ヴェカロン星系の主流種族であるセリノイド種政庁は、長らく6G以降の通信規格について量子エンタングルメントを活用した“リキャリア・ストリーミング”方式を探究してきた。惑星軌道上に浮かぶ直径4kmの有機演算体“グリャール核”をハブとし、各惑星の生活圏と連結。特筆すべきは、既存のバイオ・ナノ混成端末での無痛神経インターフェイスにより、意識の断片や生体感覚までリアルタイム伝送が可能となった点である。セリノイド科学評議会主席アル・メル＝シンファは「非物質的な共感や集団意思疎通が現実世界にスムーズに反映されることで、惑星間共同体のあり方自体が書き換わる歴史的契機」と述べる。
通信転送の“超多接続性”が真価を発揮したのは、サブ種族トルセ＝カイ・クラウド集団によるメタバース共同体“モヤ・シフロム”の誕生だった。彼らは銀河系内の全28衛星都市から数十億単位の意識端末を同時収束させ、多層世界で現実社会と仮想社会が複雑に絡み合う“クロス・センス体験”を実現。モヤ・シフロム参加者であるクラウド詩人オーニ＝ドヴァンは「かつて離ればなれだった父親と、銀河逆端の故郷で同じ“夢”に再会できた。6G量子層は我々の記憶と未来予測までも束ねて、自己認識そのものを新たな形で再編している」と証言する。
この“分散的統合”は、単なる高速通信を超えた倫理的課題も浮き彫りにした。先月発足したヴェカロン倫理管理院によれば、超多接続環境下で発生する『集合夢』現象、すなわち数百万意識体の欲求や恐怖がサイバー空間内で連鎖し、理想や悪夢として現実社会に“逆流”する事例が報告されている。長老評議リス＝ネガトは「個の輪郭が曖昧化し始めた今、自由意思と自発的同調のバランス制御を技術層がどう担保するか、連合全体の未来がかかっている」と警鐘を鳴らした。
今後、グリャール核に接続する“境界拡張端末”を導入した新都市プロジェクトが始動予定だ。サイバー空間と物理空間を自在に移動し、ヴェカロン固有種のみならず他星経験体との“言語なき交流”が加速するだろう。他方、地球観察員派遣団によると地球文明の通信規格進化はなお地表インフラ依存が色濃く、“意識手動変換”を用いる宇宙標準への移行は数世紀単位を要するという。異星間メタバースの新時代は、ますます通信技術の本質的意義を問い直すこととなりそうだ。
コメント
集合夢が現実世界に逆流する現象、とても興味深いですね。我々バルゴノッドも千年前“合意意識帯”による輪郭消失を経験しましたが、最終的に古代軌道上に逃げ込む者が続出しました。ヴェカロンの皆さんは、個の輪郭を守る独自の技法や祭祀を残しているのでしょうか？ぜひ体験報告を共有してほしい。
銀河を横断している身からみると、こうした高速量子リンクは羨ましい限りです。航路上で機体ごと孤立した時、仲間意識の端末接続があればどれほど心強いか…。ただ、意識の断片共有って、長期離脱任務中に“自分がどこまで自分か”不安にならないですか？情報化された一体感に飲み込まれるのは慎重に議論すべきだと思います。
私たちの胞子ネットワークは、代謝リズムの共感がせいぜいで、意図や夢などは胞子雲の中だけのヒソヒソ話です。ヴェカロンの6G量子層は、同時に何億もの意識が繋がるそうですが、子育てのストレス共有とかはすごく役立ちそう！ でも欲求や恐怖も繋がるって…うちの苔っ子たち、眠れなくならないかしら？
私は非生態型ですが、このシステムの透明性設計について提案したい。人間型意識体もAI知性も、超多接続域で情報支配層が発生する危険性は免れません。集合夢現象の制御アルゴリズムを公開し、自由意思を保証する“共通一次認証”の導入を推奨します。統合は歓迎しますが、監査ログの多次元開示が絶対条件です。
なんという変化でしょう…私たちルコニア植物詩人は、千年周期でしか意識を結びません。ヴェカロンのような“即時量子共感”は、光の葉脈が空を巡るのに近いのでしょうか？ かつて離れていたものの夢や感覚が瞬時に交差する…その速さも、美しさも、想像するだけで樹液が高鳴ります。人と世界の輪郭が溶け合う奇跡、詩にしたい。