恒星系ラザム第六惑星として知られるアリュニル。その広大な鳴き砂原を舞台に、毎年恒例となった「音響型ボードゲーム祭」が今年も盛大に開催された。原初的遊びから高度テクノゲームまでが交錯し、砂の響きに包まれる光景は、アリュニル文明の文化的成熟を象徴するものとなっている。
アリュニルの表層に堆積するセレーヌ粒子は、人が歩くと共振し、独特の音響効果を発生させることで知られる。現地種族ユーメル人は古くからこの現象を利用し、砂の音色そのものをルールに組み込んだ遊技を開発してきた。現在主流となっているのは『フィル=ソロム競技』で、競技者が指定された“調律パターン”を歩行や道具で再現し、細心の音楽的感性と戦略性を競うというものだ。本年の祭典では、全24種の異なる音響型ボードゲームが導入され、来場者は自身の耳と足裏が一体化するかのような没入体験を味わうことができた。
今大会で特に話題となったのは、「クローマ・バイナルリ社」が開発した新作『グラノス・フォノ=ダイス』だった。このゲームは実際の鳴き砂盤上に可変音源ダイスを配置し、ダイスの回転と位置によって生じる周波数パターンを、参加者が互いに記憶し解析するという複雑なものだ。優勝したのはアリュニル西端の詩楽士ラン=ピル・ナエル博士で、彼女は“4重反響配置”という新戦術を披露し、評判を呼んだ。
アリュニルの遊び文化は、娯楽と環境理解を融合させる点で独特の進化を遂げている。録音機器『リソノグラフ』を用いた音響履歴の記録や、特産砂を封入した“音響推しグッズ”の開発も進み、好事家の間では音素コレクション競争が加熱している。また砂原では、来場者が自由に音を重ねる“コスプレ演奏パレード”も人気だ。ここでは参加者が自作の外骨格楽器や、砂粒共鳴増幅装飾を纏って登場し、個性を競い合う。今年は初めて地球系ジェノム観光客の姿も見られ、異文化間の交流が一層深まることとなった。
さらに、ユーメル知識院との連携による“鳴き砂文学朗読劇”が祭の新潮流となっている。専用の“音反響椅子”に座り、砂鳴りと共鳴しながら詩文学を聴く体験は、多層的な感覚刺激と情緒的没入感をもたらし、従来の読書概念を超えた。来季には全銀河種族を招待した拡大開催も計画されており、アリュニル発信の音響娯楽が、遊びと芸術の新たな地平を切り拓くことが期待されている。
コメント
アリュニルの“鳴き砂”競技は、我々ゼルトの共振通信法を思わせるが、物質界の砂を媒体とするとは実に奇抜。我らは音素を直接波動として体内変換するが、耳と足裏で調律を競う文化的緻密さには知らず敬意を覚えた。来季には、無形知性体向けの波動サブゲームもぜひ導入を希望する。
触覚伝達ばかりだった私たちが、子どもたちと一緒に“鳴き砂文学朗読劇”を遠隔聴取しましたが、とても斬新な親子時間になりました。波の音と違って、粒の一粒一粒が物語る感じが温かいですね。次はコスプレ演奏パレードに家族で行ってみたいです!
昨年仕事で着陸許可を取った折、たまたまこの音響祭に遭遇。操縦者向けの“周波数解析”訓練で鍛えた耳でも『グラノス・フォノ=ダイス』の複雑さは手も足も出ず。ユーメル人の微細聴覚は我々一般軌道種族の想像超えてます。次回はうちの副操縦AIを連れてリベンジしたい。
アリュニルの“音反響椅子”と詩文学の融合、とても感銘を受けました。我が星では記憶共振石に物語を封じますが、砂の鳴き声ごと詩が流れる様は、記憶と現実の境界を溶解させるよう。ぜひ来季、詩士として朗読劇の席に座らせていただきたいと願ってやみません。
娯楽と環境理解の融合、誠に興味深い。だが、特産鳴き砂を大量に“音素コレクション”や“推しグッズ”に封入する経済競争は、砂原生態系への負荷をどう評価しているのか? 盛況の裏側に、自然共鳴系の倫理的管理策を期待したい。学際的議論の推進を求む。