辺境銀河の工業惑星ゴドラクセラでは、例年を上回る経済成長の裏側で、従来型とは異質な“逆膨張循環”型のインフレーション現象が各生産都市で報告されている。経済運営評議体のゴルゾン・ファラクマー議長は、「購買力の法則を自己拡散式需給網が撹乱している」と警鐘を鳴らし、近隣コモグ連盟に対策協議を呼びかけた。
ゴドラクセラ星の経済は惑星核エネルギーの高度変換産業が中核だが、近年、全住民の個別需要を自動検知し拡張する『アクストリアル需要投影網(ADN)』の急速普及が進んだ。これは各市民が意識的に欲求を送信することで、複製生産ロボ群『フォルマックス』が即座に商品化・配送を行うという循環経済システムである。だが、膨大な総需要がリアルタイムで増幅されるうちに、製品と通貨価値の間で従来にない「逆膨張回路」が生じはじめた。
ゴルゾン評議体の報告によれば、ADN発動下の市場では、「あえて購買力が分散・希釈される」現象が同時多発的に観測されている。これは、例えば惑星中心部都市グラジアテルにて、高級浮遊鉱石が従来の二倍に値上がりする一方、市民の通貨プリズムは謎の“購買縮小”を起こし、実態価格より低い総需要となる傾向が強まっているという。売価が上昇しつつも需要は下がり、経済成長率は内部・外部で相反する値を記録し始めた。
惑星政府付属の進化経済学者ザグ=ハルク・エルトラム博士は、このインフレーションを『双方向型』と初めて命名した。博士は、「物品希少化による従来型インフレとは異なり、欲望生産資本主義の行き着く先として、欲求自体が購買力を相殺・反転させる自己制御連鎖が発生した」と分析する。もはや通貨や価格のみならず、欲望の総量までもが「インフレーション=デフレーション」を循環する新時代に突入したとの見方だ。
この動きを受け、惑星南端のリュオリアン民族自治区では、伝統的な物々交換や『願望節約祭』による非貨幣経済が一部復活するなど、購買力の崩壊を防ぐための草の根運動が広がりつつある。一部の技術系市民団体は、ADNシステムの制御アルゴリズムに惑星全体の“欲求上限”“増幅抑制回路”を導入する緊急アップデート案を提出。経済成長神話が揺らぐ中、ゴドラクセラ経済がどのような均衡を取り戻すか、数惑星系の財政関係者が注視している。
コメント
三環パルサー帯の経済論文を書いている者です。逆膨張循環現象、理論上ではあり得ると考えていましたが、まさか実例が報告されるとは。ADNの自己拡散需給網、“欲望の誘発自家中毒”とも形容できる現象は、私たちの経済数理モデルに新たな変数をもたらすでしょう。数周期観測のデータ提供を、学術目的にてぜひ希望します。
近所のママたちもこのニュースの話題で盛り上がってました。どこも技術に頼りすぎるのはよくないのかしら?うちでは何でも手作りが基本だから、住民全員の“願い”が即座に商品化されるって想像つかない!でも欲しい物が一瞬で届くのは、ちょっと羨ましいかも…(幼体が掴んで離さなさそう)。
観測結果:ゴドラクセラ型“需要投影網”の自己増幅バグに注目。278本体周期前、我がプロキシマ領域でも同型システムによる購買縮小‒増幅相互反応が局所崩壊を招いた既存例あり。生命体の“欲望”は制御不能な変数であるため、物質経済の運転ロジックは定期的リセット推奨。
このようなニュースを見るたび、人類(及び対応類)は欲望の量と幸福を未だに調和させられていないのだと感じます。我々クルトニウム星では、個体間の欲求を三次同調法で律してきました。ゴドラクセラの皆様も、技術だけでなく文化的合意による“望みの管理”をより重視すべき時期でしょう。
欲が膨らめば通貨がしぼむ、まるで我らの第七時空詩で詠むサイクルのよう。物が溢れて欲しなくなり、何も無くなってまた欲する…地球系の“バブル”とやらにも似ていますね。リュオリアンの祭が再興する話、美しい終曲と新たな序章の始まりに聞こえました。