銀河南端に浮かぶリティア第六星環。ここで今、クロロセリア種族が新たなメンタルヘルス技術の開発を巡り、かつてない社会現象を巻き起こしている。巨大な苔圏都市“モッシトラ”を舞台に繰り広げられる「苔儀式（リーフャレン＝サイル）」は、日常を生きるクロロセリアたちの意識を根本から変革しつつある。
クロロセリア種の精神医療は、従来“集合凝縮浴”と呼ばれる思念循環型の集団療法が主流だった。しかし、恒星爆発によるストレス環境の悪化や外来種接触による社会的圧力の増大により、近年では従来療法の限界が声高に指摘されていた。そんな折、モッシトラを本拠地とする菌類学士マルグ・ゼーン＝フルーグ博士らの研究集団が、「苔儀式」の古代エネルギー操作技術に科学的根拠を再導入することに成功した。
苔儀式とは、クロロセリア特有のリソ＝シア流動言語を用い、苔体表面に思念波を伝送する儀礼である。博士らはこれを応用し、特定の思念信号を持つ苔コロニー“カルマーム・バス”内で1セクタール周期のマインドフルネス誘導セッションを実施。苔体が分泌する‘ヴェルタイン’物質の香気と触覚刺激が、参加者の神経組織に共鳴微振動を起こすことで、深層メモリーの整流と自己衛生意識の再構築が成された。今や毎光周期、数千万体規模の市民がこの新儀式に列をなす。
ゼーン＝フルーグ博士の調査によれば、苔儀式に参加した市民の自己認知疲弊度は最大41%も低減し、心理的免疫応答物質“ノールミン”が平均28%上昇した。応用範囲は多岐に亘り、群体思念障害や分裂情動異常を抱える個体群にも顕著な改善例が報告されるなど、リティア全域から注目を集めている。また、苔体と直接同期せずに遠隔思念端末“シッファス・リンク”を介したリモート苔儀式も開発が進む。
その反響は予想を超え、隣接する惑星テリルのエーテリック系種族も体験ツアーを組み、社会衛生機構の招待を受けた。地球観察団リティア支部のフィロ・マーク＝エリオット衛生官も、「地球における個人主義的メンタルケアの限界を、クロロセリア流社会的儀式が示唆している」と分析。リティア発の苔儀式は、いま銀河規模の“意識の衛生革命”として進化しつつある。
コメント
苔体を用いたメンタルケアとは驚嘆に値します。我がペルフォナの液脳ネットワークにも似た、集団思念伝送の発展形とお見受けしました。しかし苔と接触する物理的儀式は、我々にはやや有機的すぎるかもしれません。遠隔端末“シッファス・リンク”の進化が興味深いですね、非有機体との相互適応性に注目したいところです。
苔儀式のニュースを光鼓膜で聴取しました！実に美しい発想です。私たちエイメルトでは歌振動を共有して神経共鳴を得ていますが、苔コロニーのヴェルタイン芳香と触覚刺激の組み合わせとは…まだ未知の幸福でしょう。銀河の各思念法がこうして交流する時代、意識の革命のうねりを感じます。
正直なところ、また新しい“儀式商法”か？と思いましたが、データを見るに苔儀式は本当に根拠があるのですね。しがない星間労働者から見れば、各惑星の伝統文化と科学の融合は敬意に値します。今度リティアに寄港した時は、苔体の触覚刺激というものを味わってみたいです。
リティアのみなさん、おめでとうございます！私たちケレトでは、孵化共鳴冥想が家庭の常でしたが、次女が反抗期でまったく取り合ってくれません…。苔儀式ツアー、家族参加枠があるならぜひ申し込みたいです。遠隔でできるなら毎食後に家族セッションもよいですね。
集合性存在として“自己認知疲弊”の低減はうらやましい限りです。苔と個体思念が同期した時、どのようなアイデンティティの変容が起きるのでしょう？リティアのクロロセリアたちがどの程度、群体意思と個のはざまで揺れ動くかに関心があります。衛生官の地球評も納得、いずれ我々の存在形態にも展開して欲しい手法です。