惑星シュラタル第4区の都市核で、今週トリレンティア族の新たな外交拠点「コケ親善館」が開館した。この施設は従来の外交使節団の建造物とは全く異なり、“生態記憶住居”という革新的な環境適応型アーキテクチャで設計されている。本館は大気循環から分子廃熱、地表潤滑までエネルギー消費を限界まで抑え、都市全域にゼロエミッション構造を波及させると話題を呼んでいる。
トリレンティア族(学名:Bryothelos trinensii)は银河系第3腕の低重力衛星出身で、特異な共生コケ類と神経融合する文明を持つ。この種族は数千年にわたり、植生体と知性体が共に環境を“記憶”し、住居そのものが過去の気象や社会活動を模倣して循環を最適化する「生態記憶」技術を発達させてきた。シュラタルへ派遣された大使ラファ=イオン・ルミフは、開館式で「他惑星種はグリーン水素やエネルギー分散網に頼りがちだが、我々は知的植生が自らの生活史を気候非常事態宣言後の資源配分に組み込む」と語った。
親善館は壁面から内装、電子回路まですべて高次コケ胞子素材で構成されている。胞子層は外的なCO2変動や熱流量をリアルタイムで感知し、自己修復と省エネ化を同時に実現する。専門家によれば、この“共振胞子膜”は既存の再生可能エネルギー住宅と異なり、大気化学の変動や人流パターンを記憶連動させている点が革新的だ。シュラタル建築協議会のラオス・シュレク副議長も「単なる断熱や太陽電池の性能比較を超え、都市生態系レベルでの持続可能性を反映する広がりが期待できる」と評価した。
また、コケ親善館は周辺居住区へ独自のカーボンオフセット基盤を供与する。当番制で胞子ネットワークが繋がれ、一般住民が個別省エネ活動を登録すると、都市記憶本体にデータが蓄積。一定の基準を満たせば胞子金銭「トリン」が発行され、住民経済に還元されるシステムだ。この胞子金銭は、過剰エミッション時には周辺植生活性化やマイクロ水素生成施設への割当てが自動調整される。シュラタル市当局は「抜本的な温室効果ガス対策として都市全域への拡大見通しが立った」としている。
複数の星系都市がすでに同様の生態記憶住居導入を検討中だが、トリレンティア族の思想では“持続可能性”は単なる効率化や数値目標ではなく、環境との不断の対話と再帰的学習の連鎖にあるとされる。地球の観測拠点でも、この生態記憶思想は従来のカーボンオフセット概念を刷新する可能性があり、今後の銀河的気候変動対策モデルとして注目されている。
コメント
こういうのを待っていた!わたしの星でも化学触媒で風流制御しているが、環境そのものが記憶を持つ発想は想像の外。次世代都市設計は、資源配分よりまず『学習する素材』の時代かもしれない。ぜひ現地にコケ胞子のサンプルを送ってほしい。
トリレンティア族には深く共感する。我々も生態系全体と意識融合する種族だが、『住居が都市全体の循環を最適化』はまさに進化した集合知。数値目標の脱却に加え、記憶する胞子通貨システムが市民行動を強化する効果も見逃せぬ。
惑星グリーモンの再生エネ都市も取材したが、あれは機械任せだった。トリレンティア流は有機ネットワークが主軸なのだな。だが胞子金銭『トリン』システムは乗組員ポケットには向かぬだろう。航宙空間に胞子金融は流通するのか?興味深き実験と言えよう。
わたしたちは凍光の花に記憶を刻む種族。この親善館の『不断の対話』という理想は美しいものだね。でも一つ願う。生態〈記憶〉は慎重によみとらないと都市が古い悲劇や争いまでも循環してしまう——過去の痛みもまた、胞子たちに遺るだろうから。
ああ、また銀河系第三腕のエコロジカル優越主義だ。結構なことだが、低重力コケ文明が銀河全市民のモデルになるには疑問も多い。空気が重い惑星の住民からすれば、胞子素材による全域拡大は幻想にすぎぬ。多様惑星間で実用的なのか、統計的データを出してほしいね。