銀河辺境の惑星ヴェリムス第七帯で、異種共生体ゼリン=サーム族による次世代カーボンニュートラル技術が注目を集めている。酸素環境を持たない彼らが生み出した「気苔工学」は、従来のパワー・トゥ・ガスや地球型再生可能燃料とは異なる、きわめて独自かつ高効率な炭素循環メカニズムを実現した。グリーントランスフォーメーション(GX)を惑星規模で推進するこの技術のコアには、「アークオス=グリオン触媒苔」という未知生命の活用がある。
ヴェリムスのゼリン=サーム族は、酸素を使わず大気中メタンと重元素鉱毒をエネルギー源にする特異な進化系種族だ。惑星の大気浄化とエネルギー生成双方を同時に担う「アークオス=グリオン触媒苔」は、彼らの生体膜から分泌される微粒管と共生させることで、従来のCCUS(カーボンキャプチャ・利用・貯留)を数段超える吸着・変換効率を発揮する。具体的には、浮遊状の苔膜が大気の遊離炭素を分子レベルで捕捉し、高密度な液体燃料「ゾレス=グリーン素」を1サイクル10時間で合成、最終的に種族のエネルギー需給を全自動で賄う連続工程が確立されている。
気苔工学の画期的ポイントは、カーボンフットプリントを定量化するだけでなく、「負の炭素排出」=すなわち大気中炭素を“借りて返す”という新概念を社会経済インフラへと組み込んだ点にある。ヴェリムス第七帯の交易連盟では、排出権取引の制度を「リアルタイム減算型」とし、ゼリン=サーム族が生み出したゾレス=グリーン素の生産量に応じて即時に炭素債権が流通する。排出超過した集塊国家や都市コロニーは、余剰分をこれらの触媒苔製造拠点から直接購入・補填する新たなカーボンバランス経済が稼働しはじめた。
この流れに伴い、従来の水素社会を掲げていた周辺惑星国家サナ=トリオ連邦では、ゼリン=サーム族との技術連携へ向けた外交団派遣が加速。特に高純度グリーン水素を併産する苔膜の開発競争もはじまりつつある。一方、地球社会の一部GX観測者たちも、ヴェリムスの技術は「気体由来の超高速CCUS」として驚きをもって捉えているようだが、酸素圏の浸食リスクなど適用課題が多く、慎重な検証が求められている。
ゼリン=サーム族の若き研究指導体ジラ=アル=トゥレンは、今後の展望についてこう語る。「我々は炭素と共生し続けてきた。惑星バランスの再編成を担うべき知見は、もはや単なる脱炭素社会のためではない。他星系と共に“炭素の還流”そのものを倫理基盤とする新時代を築こうとしている」。惑星間のカーボン社会設計に“生物的知覚”で斬り込むヴェリムス発技術から、今後も目が離せない。
コメント
ゼリン=サーム族のような気体循環技術、非常に興味深いですね。我々岩知性体にとっては大気などは単なる外界現象に過ぎませんが、惑星そのものの炭素バランス制御という点では地殻元素循環と響き合うものを感じます。もし触媒苔が岩層の鉱毒浄化まで応用できるなら、ぜひ地核融合シンポジウムで議論したいです。
この『気苔』、旅の途上で燃料補給基地代わりになったら最高ですね!ゾレス=グリーン素がチャージできれば、もう従来のプラズマチャネルに戻れませんよ。地球でも噂になってますが、酸素圏に棲む生き物には警戒も必要ですね。航海士としては、異種系が惑星ごとに適応進化する感覚、とてもワクワクします。
子孫たちに澄んだ大気を残してあげたい…その点、このリアルタイム減算型の炭素経済、とても美しいと思いました。ゾレス=グリーン素が家庭用エネルギー料理にも使えそうかしら? ただ、ゼリン=サーム族の“炭素と共生する倫理”は、私たちの生命観にも通じるものがあって、ちょっと感動しました。
技術革新の名の下に“炭素の還流”を倫理基盤に据える姿勢、果たして普遍化できるものだろうか? 我々ソラピオ族は、過去自己大気を全逆流させ絶滅しかけた歴史を持つ。どの技術にも光と影がある。惑星単位の生態系ごとに“適応限界”が異なることを科学者諸氏には忘れて欲しくない。
気苔の可視発光パターン、実に幻想的よ。遠隔観測でもヴェリムスの大気を染めるグリーングリオンの流れは、一種の芸術現象。科学や経済の話もいいけど、こういう“星の呼吸”が宇宙の多様性を豊かにしてくれるのだわ。次の作品テーマはこれに決まり!