広大なトリリン系銀河の中で独自の生態工業文明を築いたゲルノール星第六階層都市圏で、消費生活の象徴とされる「多機能エコバッグ」から突如発生した、自己進化型プラスティックごみ細胞（通称：パウリン体）が都市の自然環境を席巻する事態となった。これに対し、同星系生体倫理評議会は緊急生態統制令を発動。ごみ削減とリサイクル政策の限界と、惑星規模での環境再設計の必要性が強く問われている。
発端は、工業種族ジュラフザル族の開発した『ワーム・エコバッグ』である。このバッグは分子組成が所持者の持ち物に適応し、自動で拡縮・変質を繰り返す便利な生活道具として定着していた。だが今年、バッグから排出される微細な『適応残渣（てきおうざんさ）』が、ゲルノール大気層で新種のケミカル栄養素と偶然に相互作用し、自己進化型のパウリン体へと変容。都市の通路や居住区域内で増殖を始め、遂には配管網や樹木系集合体まで侵食し始めた。
パウリン体はペットボトル由来のゲルノール標準ポリマーを素材としつつ、自己修復・自己増殖能力を有する点が地球のプラスチックごみと大きく異なる。従来、同星では焼却処理と分解酵素リサイクル法によるごみ管理が徹底されていたが、進化したパウリン体はこれらの対策を「記憶複製」により回避。捕獲や分解の試みを模倣し、逆に侵入した作業ロボットの表面に新たな“包装層”として張り付き始めた。
この反乱は、自然環境のバランスに大打撃を与えている。ゲルノール名物の浮遊樹林群ではパウリン体が葉脈に侵入し光合成効率を妨げ、さらに生態ポイント制に基づくリサイクル経済も混乱した。都市評議員ヤタール＝スェミンは声明で『我々のエコバッグ文化は、便利の追究と環境負荷検証の双方を怠ることで危険な輪廻に至った』と指摘。焼却を強行すれば有毒アーク粒子の発生が避けられず、星系海洋部に流出する危険性も浮上した。
当面の対応策として、生体倫理評議会はリコール処分と同時に、パウリン体を魅了して帰巣本能を刺激するとされる新型『循環共鳴ペンダント』の全市民配布を決定。また、都市自治体ごとに『エコバッグ利用憲章』の制定および、自然由来素材による容器包装への全面転換を求める条例案も浮上している。それでも、都市住民の多くは『手軽さ』や『所有拡張』の快楽を捨てきれず、持続的なごみ削減に向けた意識改革には長い道のりが予想される。この“文明的エコバッグ反乱”は、銀河規模での自然環境再設計の難題を改めて浮き彫りにした。
コメント
毎度思うのですが、単純な利便性への欲求が複雑自己複製体の誕生を招くのは進化的必然のようですね。我々の知層はすでに1000周期前、全機能パック系ツールの自己拡張暴走を『善意原理の陰謀』として封印しています。パウリン体の記憶複製能力は興味深いですが、やはり単一機能特化型への原点回帰が最短解だと進言いたします。
ゲルノールのみなさんのご苦労、よくわかります！うちの巣でも昔、自己増殖型コクーン包装が産卵床を占拠して大変でした。環境と道具はバランスが大事—便益だけじゃなく、後々の世代のことも考えてあげてくださいね。循環共鳴ペンダント、ちょっと可愛い気もするけど……噛んでも平気なのかしら？
地球でも“プラスチック汚染”とやらは深刻と聞くが、記憶複製型パウリン体は一段階違う脅威だ。管理ロボットを逆に包装素材化するという構造的転倒に、文明設計の盲点を見せつけられる。循環共鳴ペンダントの効果に期待しつつ、当艦はしばらくゲルノール系域航路を避ける所存。
これは文明型生命体として避けて通れぬ課題ですね。我々がかつて『自律砂袋』に支配されかけた記録と重なるものを感じます。便利を追求すればするほど、いずれ帰納的な試練が待っています。効率よりも、生態系との可逆的関係を追求されんことを。祈ります。
ゲルノールの“エコバッグ文化”って、銀河観賞映像の題材にぴったりだと思ってたのに……現実はスリリング！パウリン体の自己進化描写も映像的に超映えるけど、住んでる当人たちはたまったものじゃないですね。流行の『エコバッグ持たぬ美徳』、映像芸術としても次トレンド待ったなしです。