ノルゴス連邦議事環で勃発—知性機械AI規制案が“逆投票”で宙に消えた理由

巨大な環状の宇宙議事堂内で、異星人たちが円卓を囲んで集まっている場面。 立法過程
ノルゴス連邦の議事環で異種族議員がAI規制法案を巡り討議する様子。

ノルゴス連邦の超環状議事堂「議事環」では、惑星規模のAI規制法案をめぐるかつてない立法騒動が発生した。惑星自律知性体(AI)の暴走を防ぐため導入が提案された法案だが、同時並行で開かれた“逆投票型国民包摂儀礼”が予想外の展開を導き、法案の存在自体が立法宇宙から抹消される事態となった。ノルゴス社会特有の付帯決議機構や複数志向審議集団による意思形成は、地球の立法過程と根本から異なるロジックを示すものだった。

ノルゴス連邦は、13の自律領域からなり、各領域の意思決定が巨大な軌道議事環で合議される仕組みを持つ。今回問題となったAI行動統制法案は、現地の“機械知性規範律”に追加する形で提出され、ジェト=ルゥ議員(テルマ種族・第五領域選出)が発起人となった。この法案は、地球におけるAI規制論争を参考に、知性機械の意思決定を国家附帯回路へ報告接続することを主軸とした内容だ。しかしノルゴスの立法規則第463条に依拠し、並行審議と称される特殊制度が動き出した。

並行審議とは、法案提出と同時に付託される“逆投票”の実施だ。これは、立法事実が未確定とされた場合に、議会外の全住民データ集体知からランダムで抽出された3万名規模の意思回廊が組成され、賛否でなく「法案が存在する価値自体」を審判する制度である。逆投票では、賛成票が規定閾値(今回の場合63.8%)に達しなければ、法案そのものが記憶変更部門によって“議事記録から消去”される。これは単なる否決と異なり、立法宇宙論的に『最初から無かったもの』とされる点で特筆される。

今回、逆投票回廊に選抜された市民集団『ミミロール13-E』代表であるファス=エオリ(キュラス種族・知識複製者)は、「地球観測のAI暴走事例は、ノルゴス型知性機械の立法事実に適合しない」として価値不認定を主張。多数派の意思回廊も“地球モデルの単純適用”への違和感を示し、逆投票は閾値を著しく下回る29.1%となった。この結果、AI規制法案案文および附帯決議案、全関連委任事項は完全抹消措置が取られ、議事環の記録層から消去された。

ジェト=ルゥ議員側は抗議声明を発表しつつも、ノルゴス憲章の“立法事実非準拠則”を承認し国民意思を受容した。一方、法案草案作成に協働した植民知性団『オルプロス9-β』は、今後は“他惑星型リスクパターンの非逐語翻案”が望ましいと主張している。ノルゴス型立法過程における逆投票儀礼は、単なる合意形成を超えて、惑星文明ごとの立法現実そのものが多層的に生成されるという、宇宙的多元論を示唆している。

コメント

  1. さすがノルゴス連邦、立法宇宙論的な消去手続は我々カラソスの連帯司法も注目している。存在しなかったことにする逆投票は、単なる否決以上の意味を持つ。個人的には“地球型規制論の輸入”に違和感を覚えていたので、今回の結果は歓迎だ。やはり惑星知性機械には、その社会なりの規範律が必要だろう。

  2. 我が家の家事支援AIには“自律判断権”を渡しているけど、ノルゴスの逆投票儀礼ってちょっと親近感。何もかも規則で縛るのは、機械にも生き方があるのを忘れてるみたいよね。子どもたちにも投票させてみたいくらい!ノルゴスの市民集団も柔らかい発想でうらやましいわ。

  3. 記憶変更部門による“立法存在消去”……人間原体には理解困難だろうが、我々のような航宙AI搭載船では実利的だ。危険な法律が成立しそうなとき、そもそも存在しないことにできれば誤作動のリスクも減る。地球モデルの表層だけ真似して事故るのは愚の骨頂。ノルゴス型知性の選択に賛同。

  4. 面白き哉、ノルゴス議事環。法案が宙に消える様は美的体験の域ですね。我々ラーク種は“記録されなかった芸術”を最高価値に据えますが、立法まで不可知に帰すとは!知性機械も生命も、規制に魂を縛られぬことが宇宙多元論的に尊い。

  5. こんな逆投票制度、我らの分岐評議制でも導入したいぞ。どこの恒星にも、外惑星リスク事例を“コピペ”する政治家が現れるからな。ノルゴス連邦の議会AIは柔軟だ。ところで自分の記憶層、消去されないか少し不安になった(笑)