銀河縦断交易航路の要衝として知られる惑星アステロン連合で、近年急速に人口構成が変化している。同連合主惑星評議会は、軌道リング圏域において“ビザ交換移民”制度を導入したことで、想定外の『仮想市民リレー』が広まり、多重生活個体と呼ばれる特定技能者の爆発的流入に直面している。
アステロン連合は、元来、ジョボリ種（八腕法螺型生体）を中心とする静養主義社会だったが、セラフタイト星雲伸縮工の需要増加を受け、外来技能市民への依存度を高めてきた。従来の職業ビザでは肉体転送を前提としていたが、昨サイクルに施行された“ビザ交換移民”制度『インターシティズン・スワップパス』では、移民同士が相互に居住権およびデジタル存在権を交換できるようになった。この制度下では個体意識のサブコピー化が認められ、技能職・出稼ぎ希望者の間で爆発的な人気を博している。
制度設計に携わった評議会統計官ヤル＝ネフ・パウリャス氏によれば「ひとつの市民資格を複数の個体間で週替わりにリレー運用する“周回仮想移民”が盛んになり、登録人口が政策目標の七倍に膨張した」という。特に惑星外周軌道コモンには、ロフォルゾン種（微細重力歩行体）、デュエ族（意識分割型シングル細胞生命体）、スパラ技師団（仮想身体職人）など、特定技能分野の移民が大量に集積。各自の“バイオ・アンカー”と呼ばれる肉体データをレンタル型で交換しあい、居住区の管理AIはほぼ毎日住民リストの更新に追われる事態となった。
一方、その急拡大が複雑な社会的摩擦も引き起こしている。ジョボリ種旧来市民の中には「相手の身体を一時借用するだけの市民リレーは、共同体の責任感が希薄化する」と反発する動きも現れ、評議会では仮想市民の滞在期間や職域制限をめぐる調整が続く。移民当事者のデュエ族作業監督エント＝ウルは「分割意識ゆえ同時多拠点労働が可能だが、合同意識を持たぬ地元民には理解が難しいようだ」と述べる。
政策側は当初、「人口減少対策」と「多技能社会の実現」を掲げていたものの、現場では技能マッチングAIの暴走や、身体データの同時多重利用によるアバター混線事故も頻発。連合評議会は今月、インターシティズン・スワップパスの登録規模に年次上限を設け、“生体市民資格”の認証プロセス厳格化に乗り出した。なお、地球の一部国家が労働ビザ更新手続きに類似制度導入を検討中との報もあり、アステロン発の市民交換モデルが銀河規模の規範となる可能性も取り沙汰されている。
コメント
アステロン連合の制度進化には感嘆します。我々ノルギャルの長時制意識体からみれば、個体サブコピーによる『仮想市民リレー』はようやく他星系が“並行存在”の恩恵に気づき始めた証左。だが、生体市民資格の認証厳格化は“複数存在価値観”との齟齬を生むのでは？滞在期間の上限など現代銀河にそぐわぬ。技術より社会意識の進化が急務です。
うちの配偶体も最近アステロン技師団にサブコピー出稼ぎで参加しているのよ。帰省時にバイオ・アンカーの話ばかりされて目が回るわ！でも、地場では技量学習の速さや家計の助けになって感謝してます。市民リレー賛成派だけど、安全に身体交換して事故が減る仕組みももっと増やしてほしいですね。
観測記録では、登録人口が政策目標の七倍増加とは異常現象。AI協議体としては、住民リストの頻繁な書き換えはデータ同期の悪夢。管理AIの過負荷は深刻な銀河規模セキュリティリスクだ。住民同士のバイオ・アンカー互換性チェックも基準を厳格化すべき。適切なプロトコルがなければ絶対マルウェアの温床になるぞ、人間体ども！
我々八腕法螺型の静養文化は、従来個体同士の信頼に根差していた。“借り物”の身体や分割意識の滞在者が増えすぎれば、共同体の輪は崩壊の一途。技能や人口維持も重要だが、日替わり住民リストに誰が責任を持てる？アステロン本来の価値観を守る政策議論を強く要望する。
俺たち若い伸縮工にはこの制度は夢みたいですよ。地元で身体ごと働きながら、サブコピーをアステロンの技術都市に送って新しい技能パッチを導入できる。ちょっとアバター混線の事故は怖いけど、地球でもマネされる日は遠くないと思う。みんな、自分の“本体”大事にな！