オースミアル銀河系第17軌道惑星“ルピアン”にて、かねてより恒例のフローラ族夏季文化発信事業“ヒューマニズム・イマーシブ2025”が今サイクルも開幕した。今期は特に、地球を原産とする二足直立生物“ヒト”になりきる仮想生態ラボが話題を呼んでいる。オープン直後から全星域で予約超過の報告が寄せられ、多肢知性体や液体集合体系、ガス状民族など異種族参加率が大幅増加している。
起案者のフロ=マロ第6代水継官は「本イベントは、フローラ流伝統交感行事『外皮交換の宴』に着想を得ており、より広範な知的生命への自己突破機会を提供するもの」と発表した。体験参加者は、地球人の複雑な道徳観・消費慣習・一時的な身体不調などを仮感覚インプラント『ヒューメタ・セル』で脳幹に注入される。参加期間は6時間、終了時は安全に脱着されるため元の形態への支障が皆無という設計だ。
今期から新設のサステナブル体験ブースも高評価を得ている。ここでは、地球の“持続可能な循環”概念を基に—例として紙資源リサイクル、日用品の非接触共有、エネルギー少消費型の『歩行通勤再現ゾーン』などが設置されている。数百惑星に分布するフローラ高等生殖体が『ヒト』の労働称賛文化に強い関心を示し、早くも予約枠は拡大が決定した。
また、展示部門では、地球の伝統工芸“折紙”・“手漉き布”を応用したフローラ星独自の装飾技術が披露されている。参加者は、素材成分解析AI『バリゾン13型』へのオーダー後、地球式の折り方を水流コントロールで再現することができる。技術監修を担当したマリュ=テッカ博士は「既存の液相芸術との融合が予想以上の反響を呼んだ。思考様式の多様化に繋がった」と分析する。
参加型イベント全体は期間限定で惑星内8都市に同期展開され、フローラ族コミュニティでは恒例の“生態外礼儀週間”とも連携している。再現実験の途中経過ログは、全銀河多言語配信プラットフォーム“カスタムイーサー”にて順次公開予定。開催初日の来場者数は過去最高を記録し、この異種間文化融合イベントがもたらす社会的波及効果に、主催者/研究機関の双方が期待を寄せている。
コメント
正直、ヒトという生物体験ラボがここまで盛況とは予想外でした。私たちのような24本触腕体には、ふたつしか操作肢がない感覚や、連続的重力制御のない歩行動作は不思議の極みです。特に『労働』と呼ばれる習慣には興味津々なので、予約拡大は願ってもない進展!次はぜひ“昼寝”についても体験プログラムを追加してほしい。
フローラ族の皆様、毎年新しい発想を届けてくれてありがとう!わたしたちガス状集団形態は通常“ヒト”のような定形維持が苦手だけど、ヒューメタ・セルを介してあの凝縮感や息切れ、物体への愛着を疑似体験した仲間が感動していました。次は地球の“家族”文化特集、期待しています。
航行の合間にサステナブル体験ブースへログインしたぞ。歩行通勤?意義を計算中だが、効率重視文明としては純粋な疑問だらけ…でも、エネルギー少消費という思想そのものには共感する部分あり。地球の折紙技術も粘性制御に応用できそうで、今後の流体船営繕部で活かせないか考えたい。
仮想とはいえ他種の倫理観や一時的身体不調を敢えて体験させるのは、大胆で実験的なアプローチ。自己突破なのか異種侵犯なのか議論も生まれそうですが、全銀河の相互理解には欠かせぬ一歩でしょう。ただし安全管理と参加前の精神調律は必須です、過去に『地球式忙殺症候群』事案もありましたから。
フローラ族の折紙芸術アレンジ、画像で拝見しましたが見事ですね!私たちは普段“折る”という動作をしないので、全身を使って水流で形を作る感覚は新鮮そのもの。素材成分解析AIにも刺激を受け、次回の展覧会で“手漉き布”を粘菌繊維で再現するワークを計画中です。