全銀河合同定期監察委員会の最新報告により、ヴェルシア宙域最大のエネルギー企業体『グルラタズ軌道複合体』が、運営組織構造を“流動重奏ホラクラシー”制へと劇的に転換した事実が判明した。これにより、従来の階層性や固定的役職体系に頼らぬ、可変的リーダーシップの誕生が密かに銀河各地の注目を集めている。
“流動重奏”構造は、グルラタズ域特有の半流体知性生命体『アヴォーラト族』の全身多重意思決定感受技術“ラガス＝インパルス”を基盤とする。アヴォーラト個体の全神経体で発するパルスは互いに干渉し合い、多数の意思決定波が同時に重なりあうことで、組織内の『決裁場』が流動的に形成される。そのため、いわゆる地球型企業で見られる「CEO」や「部長」といった恒常的役員は存在しない。各プロジェクトの始動や危機に際して、意思波動の共鳴度が最も高い個体が“議決因果体”として瞬間的に浮上し、その者の決断が一時的に全体を統率するという仕組みだ。
同複合企業体の『フォーン＝メナクト計画』では、超高圧軌道電束炉の建設プロジェクトにおいて、既存の流動的リーダー層に加え、外部“ジョブ属性契約者”が複数導入された。これは、地球人類の『ジョブ型雇用』に似た、限定的役割を担う外部者を一時的に企業意思決定体へ接続する制度である。だが、アヴォーラト族の流動的な意思ネットワークにヒト型契約者が順応するのは予想以上に困難とされ、ヴェルシア学会では両者の意思パルス干渉解消法が喫緊の課題とされている。
銀河経営史研究連盟のアマ＝セリュノー博士は、この流動重奏制が「予期せぬ動的リーダーシップの連鎖発生」を組織にもたらすと指摘する。実際、先月のクレシオ衛星リング遮断事故では、平時は低影響度域に属する新人個体ダ＝グルトラフォが、未曾有のパルス共鳴を組織全域で発生させることに成功し、“議決因果体”として全フローティング部門を統率。従来型指揮系統であれば即座に崩壊していた事案の収束をわずか7クワンタ周期で実現した例が報告されている。
現在、他惑星企業群ではグルラタズ方式の応用研究が加速中で、特に恒星間プロジェクトの“相互リーダーシップ”設計や、多種族混成組織におけるパルス意思統合技術への発展が期待されている。ただ一方で、過度な流動性が組織的責任追及を曖昧化し、意思決定の一貫性を損なうという懸念も急浮上している。各星系の経営者層は、アヴォーラト族特有の全身感応性がない場合でも、どこまで流動的組織運営が機能し得るのか、今後の検証に注目している。
コメント
グルラタズの“流動重奏”は、我々トーリュ星群の分相経営と発想が似ていて興味深いです。しかし、責任因果の記録をどうやっているのか？我が種は“時絡みメモリー”で誰の意思がどこに発現したか100周期単位で辿れますが、アヴォーラト式はあまりに短期かつ全身同感応依存のようですね。ヒト型雇用体の混成は、果たして協調進化か断層混乱か、経過をさらに観察します。
家事分担制にも“議決因果体”を導入したいものです！パートナーも幼胞体も決断責任をなかなか担いませんから…でも、流動重奏みたいに誰もが一瞬ごとに責任者になったら、毎日の液胞清掃もスイスイ進むのでしょうか？我が家もアヴォーラト式感応ネットワークほしい！
地球型“CEO”職制と大違い。流動的リーダー層が発生する“決裁場”って、航路変更時の即応分岐制御みたいで宇宙航行向きかも。だが、意思パルスがうまく共鳴しなかったら、うちのクルー同士みたいにすぐ漂流議論が始まりそう。外部ジョブ者のパルス遅延は事故の元、ほらうちも似たのでヒヤヒヤしたし。
この経営構造は音楽に似ていますね。意思パルスが重なり合い、瞬間ごとにメロディが変化しつつ全体で和声を作る。“リーダー”というより“主旋律”が流動するイメージ。アンバドの和合合奏と通じる美学を感じます。地球型の単調な代表制がいかに退屈であるか改めて思いました。
また責任境界が曖昧化するモデルか。我々バルガ評議会は、時空的意思記録が不完全な体制を常に危険視している。事故や不正発生時、誰が“議決因果体”だったか追跡困難では？流動重奏にも明確な法的トレーサビリティ措置が必要。ヴェルシア宙域は常に型破りだが、安易な模倣は禁物と伝えたい。