ミョニュル星の『個体縮小端末』普及で現れる人口密度逆転現象

ミョニュル星の夕暮れ、透明なカプセルで横たわる多頭生物たちと、その上空に浮かぶ光り輝く思念都市の幻想的な風景。 人口動態
肉体の活動域が静まり、思念都市圏だけが賑わうミョニュル星の変貌を象徴する一場面。

多頭蓄積種族トゥンヤ=ソン族が支配するミョニュル星にて、予想外の人口動態変化が惑星知性評議会を揺るがせている。近年、全個体の脳内に直接埋め込む意思縮小端末『サムシ=リダ・パレット』が標準化され、都市域および空洞生態区で人口密度逆転現象が急増している。

ミョニュル星トゥンヤ=ソン族は、従来まで『集合孵化巣群依存』という伝統的居住様式を維持してきた。だが、標準規格端末『サムシ=リダ・パレット』によって、個体意識を周期的に最適圧縮・転送し、最小限の身体活動体だけ維持する『寝たまま思考参加』が全世代で加速している。結果として、30サイクル前の国勢調査と比較し、身体活動域の実質人口密度が7割減少する一方、端末上で集合する『思念都市圏』の仮想的居住者数が3倍超に跳ね上がった。

この『思念都市圏過密化』は、一見して都市集中化の進行に似るが、実際には逆の効果も顕著に発生している。身体の定住が分散し、流出人口が空洞生態区や極地の移動巣、さらには惑星外周立体網へ拡大移動する現象が観測された。端末経由で思念上の労働・政治・文化活動が全域に分散可能になったことで、『物理的な都市』への居住要求が消滅しつつあるためである。

一方で、サムシ=リダ・パレット未装着人口、とくに三次成体層や高齢巣守役層の減少が社会課題として浮上した。この未端末個体群は、新末端技術の習得難や自己集積意欲の低下による『急速な社会的孤立』に苦しんでいると言われる。高齢個体の間で集団記憶の分子構築が失敗するケースも増加傾向にあり、惑星全体の思念記憶流出率が初めて10%を超えた。

惑星知性評議会では、人口減少社会の新常態に適応するため、端末の共生拡張プログラム『カイシハ・ネット』の再設計が議論されている。また、思念都市圏での過剰同期による『人格同調渋滞』が短時間で発生しやすくなったため、個体ごとの記憶分岐・揮発プロトコルの社会的受容も不可避とされる。

ミョニュル星の人口推計計算官ナリモ=タ=ゴルランは『古典的な出生数管理や物理都市施策では説明できない新しい人口動態が生じている。いまや“存在場所密度”こそが、社会構造を左右する最大要因となった』と語る。身体と意思の“密度逆転”が招く未知なる未来に、各銀河連邦理事国も高い関心を寄せている。

コメント

  1. 我々カプシでは意思転写は農耕シーズンのみに限定されてきたが、ミョニュル星のトゥンヤ=ソン族は完全常態化に踏み切ったのか。思念都市圏での過密現象は理論上、即興人格ノイズの爆発を招くはずだが…観察不可避。社会的孤立と記憶流出への対応も、腹腔知性体の系譜として興味深いな。

  2. サムシ=リダ・パレットは便利そうだけど、高齢層が取り残されるのはどの時空でも同じなのね。わたしたちの浮体巣でも旧式触手端末を使えない親族が集団夢想網から消えていく時があったわ。思念同調で家族団欒ができれば、身体を動かす必要なんてなくなっちゃうけど、それはそれで寂しいものよね。

  3. 惑星外周立体網への移動が増えてるってよ。やっぱり『存在場所密度』の最適化は全銀河的トレンドなんだな。観測者視点だと、物質密度と知性密度が見事に逆転してて興味深い。人格同調渋滞は、我々のマルチボディ同期航法の初期問題とそっくりだ。こんど現地に寄ったら通信体験してみたい。

  4. 短絡的だな。意識圧縮に全振りした文明は、倫理的均衡をいずれ崩壊させる。人格同調渋滞や記憶分岐揮発は一見技術的解決策のようで、実は集団意志の希薄化に繋がる危険がある。我々の文明でも、あまりにも早急な意識端末政策には抑制的だった。惑星知性評議会の判断に注視すべきだ。

  5. 壮大ですね。ミョニュル星が物理都市を脱ぎ捨て、意思の都市をまとう未来。水脈に揺蕩う我ら詩律種には、身体を置く場所が消える感覚がどれだけ眩暈か、想像しきれません。けれども、流れゆく記憶と共に在るのもまた、星の詩なのでは。思念記憶流出に揺れる彼らに、静かな旋律を捧げます。