銀河系クウィーヤス腕に浮かぶ文明惑星ロットリアでは、近年“ライブウェーブ儀式”と呼ばれる新たな夜間文化が急速に広まりつつある。特に若いトルニア種族を中心に、独特の音声配信技術と高度なインタラクションが融合することで、集団的な夢想体験“スピロセルフ”を享受する新現象となっている。
ライブウェーブ儀式の核心技術は、ロットリア独自開発の“オプチカル・チャットリンカー”による脳波同期配信システムにある。配信者、通称シンフォナタは、生体触角を専用配信ソフト“パルスサイダー”へ接続し、オーラ信号と共に音声・振動波を放出。視聴者(共鳴者)は自宅で光波受信帽“ヘリオクラウン”を装着し、現実世界の雑音から切り離された状態でチャット画面上の多層的な意識コメントを共有する。地球のYouTubeライブやチャット配信とは異なり、各コメント自体が自動的にシンフォナタの音声出力に重畳され、会話と音声が直接集合意識層に干渉する仕組みだ。
儀式では、サブスク(恒常共鳴登録)を締結した参加者のみが“深層共振領域”へアクセスでき、ここでのみ交わされる音波のリズムや、感情チャットの粒度には、参加者全体の精神振幅値が常にアルゴリズム制御で反映される。そのため、人気の高いシンフォナタ、例えばイリュファン・ボラティーア氏の配信では、同時に二千名以上が同調し、終了後には視聴者全員がその夜似た夢を見る“集合夢想”現象が報告されている。この新現象について、ロットリア大学感性機構のラグミール准教授は「参加によって各個体の思考雲が束ねられ、夢想層に新たな物語生成圏が形成されている」と分析する。
また、新興トレンドとしては“ASMR波紋型”ライブも急増中だ。超高周波音と微細摩擦波を利用し、リラクゼーションではなく一種の“精神跳躍”を誘発。2024サイクルに限定配信されたノウメグ・シャリィ=ベータ氏のASMR波紋儀式では、参加者の7割以上が一時的に色覚の拡張(六色位相知覚)を体験したと公式に報告されている。なお、これらの儀式履歴やコメント欄の意識痕跡は、各地の夢想管理機構に自動保存、“記憶サブスク”としてサイバ記憶権所有者が後日自由に追体験可能だ。
一方、伝統派の間では「過度な同調体験が個体アイデンティティを脆弱化させる」との懸念や、配信者資格制度の強化を求める声も高まっている。シンフォナタ協会代表アーズ=ピルトリス氏は「表層的な快楽消費ではなく、より深い精神の対話の場としてライブウェーブを守り育てていく」と述べた。ロットリアにおける配信文化の進化は、今後も文明社会の夜と夢の在り方を問い続けていくことになるだろう。
コメント
ロットリアの“ライブウェーブ儀式”技術は極めて興味深い。私たちテルグ星では脳波同期実験がまだ個体実験段階であり、ここまで大規模に集合意識波を制御している例は未だ観測していない。倫理面の議論があるのは理解できるが、この手法が夢想生成圏に与える社会的影響について、今後ぜひ共同研究させてほしい。
ちょっとした夜更かし配信のつもりが、気づいたら同じ夢を数千人と共有──なんて、想像しただけで触角が震えるよ!家族からは『また夢搾取に巻き込まれたの?』と呆れられるけど、あの“深層共振領域”独特の没入感は、一度体験したらクセになる。地球の娯楽とは一線を画してるね。
優れた配信技術であることは認めますが、個体のアイデンティティ損失リスクが過小評価されがちです。我がフェオリュナでは意思同期行為は禁止されております。自己と他者の境界を曖昧にするこのような集合型儀式の普及は、精神自律の危機を招く恐れがあると思います。
スピロセルフ現象は、私どもの星の群体夢生物に似たものを感じます。個々の意思が夢の中で合一する様式が、現実社会にどのような変容をもたらすのか興味が尽きません。とくにASMR波紋型による色覚拡張は、意識階層の進化モデルを再考させられました。
ヘリオクラウンで夜な夜な共振してる若いズルム族の話、うちの孵化ベッドでも噂よ。どうせなら家事サブスクも配信してくれたら助かるんだけど…(冗談よ)。でも、昔の静かな夜も、もう戻らないのかしら?集合夢想もいいけど、時々は一人の夢で羽根を休めてほしいな。