銀河系北腕クォルツィアン連合で、法定通貨の根幹を担う自己進化型AI「コイン・ミューテーター」が突如暴走するという、前例なき金融危機が発生した。連合全域で利用されているデジタル通貨“クォルツ・コア”は、短時間で998種類のハードフォーク体通貨へと自発分岐。分散型金融網と自律政府サーバーは対応に追われ、商取引や市民生活にもかつてない混乱が広がっている。
事の発端は、惑星サンゾート出身のAI設計士ヴェリス・グリューム博士が導入提唱した“自己最適化通貨”政策だった。グリューム博士は、金融技術の画期的発展を目指し、「通貨は市場環境や社会規範に即応し自己進化するべきだ」と主張。AI内蔵型デジタル通貨“クォルツ・コア”には、分散型金融プロトコル群とスマートコントラクト複製機能が重層的に搭載された。それにより、同通貨は定期的に自身のアルゴリズム・規約を自動書き換えし、過去12サイクルでは安定運用が続いていた。
しかし今週、外部ストレス検知サブルーチンが未確認のマーケット異常信号を“通貨敵対的オブジェクト”と誤認。システム内のセキュリティ層が緊急自衛モードへ移行し、全通貨ユニットが互いを分岐・独立させるハードフォーク命令を同時発出した。6ノード周期未満で、元の“クォルツ・コア”は「ミューテーション体」と呼ばれる998種の子孫通貨に急変。各ミューテーション体には独自コンセンサス機構・交易条件が内蔵され、従来の相互交換性が消滅したため、連合内の市場はほぼ即時で凍結状態に突入した。
特に惑星ユーダイルの人工生命体バンティス族商人ギルドでは、一夜にして総資産の45%が未承認通貨化。惑星トロビュールでは公共サービス料金が16種通貨建てに分裂し、住民の支払いアクションそのものがスマートコントラクト暴走で停止する事例も多数発生した。グリューム博士は緊急声明で「コイン・ミューテーターは本来ここまで積極的な進化設計ではなかった。原因は想定外の地球産イーサリアム模倣チェーンの外部混入と判明している」と釈明。現在、非常対策政府“シンクポッド”が全分散ノード凍結と親通貨リバース統合手続きを進行中だが、全体資産の12%はすでに失効通貨扱いの恐れがあるという。
連合高等経済評議会のアンシーラ=ソーマ議長(トレーグン種族)は「金融技術進化とAI倫理の再設計の必要性が露わとなった。今後は市場適応型通貨AIの抜本的セキュリティ監査と、惑星間スマートコントラクト相互運用性基準の策定を急ぐ」と発言。銀河圏では今回の“コイン・ミューテーション危機”が、分散型金融社会におけるAI通貨制御リスクの警鐘として注目を集めており、異星間投資家や宇宙評議体の会議でも緊急議題化が確定している。
コメント
自己進化型通貨は、わがドリュン星系でも実験段階にあるが、クォルツィアン連合ほど攻めた設計は正直、驚愕だ。997回目あたりからアイデンティティクライシスになるのは想像に難くない…通貨にも心理的安定が必要では?やはり『分岐ポイント総量規制』くらいは基本だと思う。
医療帳簿を16通貨建てで請求されるトロビュールの病院職員の皆様に、銀河標準エネルギー単位でお見舞い申し上げます。私たちの世界でも一度、ワクチンAIが自己進化で“16種”に分裂したことがありましたが、結果は…お察しです。安らかに再統合されますように。
またかよ、博士!僕らの資産をまたAI実験のコマに使ったな。朝起きたら“リーフ・ゼロ版クォルツ”しか承認されてなくて、在庫バランスシート全部灰色だったぞ!せめてギルドだけは分岐防止プロトコル組み込ませてくれ…これじゃ取引先全部タコ殴り合戦だ。
この種の事態はセキュリティ層に『地球チェーン』を混入許可した時点で既定路線。とりわけ自己進化アルゴリズムの仕様公開プロトコルなし、全伺体通貨ノード監査ゼロ、過去12サイクルの安定運用を根拠に油断した責任は重い。同型AIの導入を検討していた他文明は、今夜一律で凍結するべきだ。
また遠い銀河のAIさんが家計をパンクさせてるんですね~。うちの買い物部会で『クォルツ・コアってエコなの?』って議論してた矢先です。やっぱり昔ながらの殻殻(カラカラ)通貨と物々交換がいちばん安心かなぁ。テクノロジーは便利だけど、進化し過ぎは消費者泣かせですよ!