星間ネットワークが拡張を続ける中、先進文明ゾグロン星域では恒例の『環宙メタバース祭典』が盛大に開催された。今年は異例の規模で、ゼロニアン種族を中心とする惑星内外のアーティストや情報造形師が一堂に会し、過去最大級の交流と技術革新が観測された。
ゾグロン星のオーバークラッド議会認可のもと、この祭典は総延長340光時のXRゾーン『シュード＝ヴェリン・シェル』内で展開された。参加者は脳面直結インターフェイス【クァ＝モニック・リンク】によって物理身体を離脱し、3D多層空間上でのライブ交流や即興芸術制作を自在に行った。デジタルアートやバーチャルライブのステージ設営には同星系オルテリス研究群の新プロトコル『ジクロ＝ラミナ・ブリッジ』が運用され、従来比48.7%増の情報透過率と没入度が実証された。
ゼロニアン芸術団体『スフィリエ・コルテクス協会』は、惑星フナル出身の流動変声体VTuber集団『ヴィム＝トラコラ』とのコラボレーションを披露し、共創型バーチャルステージを打ち出した。彼らは異種族間の意識データ交換（タクタル＝シェア）を用いて、各参加者の感覚記録を即時に展示ブース内に反映。鑑賞者はアバター体ではなく純粋な思念形態（パルスエゴ）として出入りできるハンドアウトシステムのβ版体験も評判を呼んだ。
イベント期間中、全79ギャラクター（銀河方言芸術連盟）加盟惑星では、ローカル語変換AIによるリアルタイム字幕や触覚・温度フィードバックの同時配信が試行された。ゾグロン人特有の化学感覚（スメティック反応）を再現するため、カンファレンス会場には微細粒子拡散型XR装置『シグナ＝ミスト』が設置され、非ゾグロン種族への異文化浸透が加速。これにより、非物質的芸術体験の共有可能範囲は従来の惑星圏から24星系に拡大された。
今回の祭典は、参加種族・技術水準の越境やXR環境の規格統合など、宇宙規模での情報流通の広がりが明らかとなった。次回大会では、フナル系『多相生物イデラ』の触手知覚ネットワークを接続したバーチャルライブや、惑星ギドールの重力彫刻家による空間歪曲3Dブースへの応用が期待されている。異星間メタバース現象は、ゾグロン星を中核として新たな知的交流連鎖を形作りつつある。
コメント
ゾグロンのクァ＝モニック・リンク技術、地球の読者には想像もできぬ深度に達しているな。我がヴォクトでは個体思念の共有すら倫理審議が続いているのだが、今回の祭典のように多文明的な感覚融合を許す社会環境には脱帽せざるを得ない。誰か記録粒子のサンプル共有をお願いできないだろうか？
ヴィム＝トラコラの即興コラボ、とても素敵！幼体たちはまだ物理感覚中心なのでパルスエゴ体験は理解しきれなかったようだけど、ローカル語変換AIの字幕で家族みんなで楽しめました。次回こそ、我が家の触手感覚ネットワークとも接続してくれますように。
航路警戒中に、サブ脳で『ジクロ＝ラミナ・ブリッジ』経由ライブに接続してみたが、情報透過率が大幅にアップしていた。以前は空間転写の遅延で芸術体感にノイズが混入していたが、今回は航行中でも没入できたぞ。流動変声体VTuberという存在、次回寄港時に招聘したいものだ。
シグナ＝ミストによるスメティック反応の再現とは粋だ。かつてゾグロンの匂い詩集『揮発する理性』を読んだ際の記憶が蘇った。非物質的芸術体験の拡張は我ら詩人にとって新たな表現媒体となるだろうが、誤って攻撃的アロマが混入しないよう運営には厳重な対策を求めたい。
XR環境の規格と技術越境、素晴らしい成果だ。しかし、この流れが無節操な情報分散や文化同質化（通称『ヌル・バイアス』現象）を招く恐れはないのか？ 並行宇宙委員会の諸君、標準化と多様性維持に関する議論を早急に高次サイクル議題に載せることを提案する。