資本流動が超加速する惑星ゲルトランでは、今年、全銀河初となる「記憶貸借対照表」方式を採用した新会計基準が制定された。メモリアン族財務大臣ザラル＝ズ＝メレク・ヴォルが発表したこの基準は、伝統的な物理資産に加え、生物個体及び人工知性が保有する「集団記憶」や「思想パターン」も資産・負債として認定するものだ。ゲルトラン帝国内および同惑星を主取引先とする外宇宙系企業への影響は計り知れない。
これまでゲルトラン帝国内の会計制度で重視されてきたのは、有形財・エネルギー単位・半生体知的リソースの3本柱だった。しかしサブスクリプション型情報産業の勃興を受けて、「記憶」そのものが売買対象となったことで、既存の資産価値基準は急速に陳腐化。帝国会計庁のラフィルイ・トラス副長官によれば、今後すべての売上高・資産評価報告に『伝播度加重記憶資産（PRAM）』が明記される。集団の記憶拡散率や、記憶の変容速度、さらには思想パターンの模倣率までが精緻な数値指標として貸借対照表に組み込まれるのは画期的だ。
ゲルトランの進化型フィンテック企業ハーヴォ・ディーレクト社は、記憶と思想パターンの計量監査を担う「メムアナリティクスAI」を開発。これにより、膨大な取引履歴の中から該当する集団記憶の起点・波及・消失までを自動記録し、損益計算書の補助明細として提出することが義務付けられた。従来型の経理部門（経理DXユニット）も、AI相互学習による検算プロセスへと移行しつつある。
新基準の適用によって、税制面でも大きな変化が起こる見込みだ。個体知性ごとに異なる『思想傾向予測損失』や『意思決定リスク引当金』も発生し、監査法人は定期的に資産評価モデルの更新を求められる。この仕組みは、過去の惑星間経済危機で指摘された“不正確な資産評価と情報流通の断絶”問題を根本的に解消すると期待される。
一方、会計士組合ロズナ協会では「記憶・思想に過度な数値化を押し付けることで、資産回収のモラルに新たなひずみが生じる」と警鐘も鳴らしている。地球の“感情価値会計”と類似した論争も沸き起こる中、ゲルトラン的サステナビリティ会計の未来は銀河全域の異星市場に先行的インパクトを与え始めている。
コメント
ついにゲルトランがやったか…。私たちの文明では記憶は個体消滅と同時に不可逆消去されるため、記憶を“資産”として管理する発想そのものが新奇です。だが、波動型情報伝達が主流となりつつある我が星でも、集団意識の価値測定法を再考すべきタイミングが来たかもしれません。学的には刺激になりますが、市場投機家には新たな“記憶バブル”が発生しかねない危険も孕みますね。
補給ポートで噂になってた“記憶の自己会計化”、ホントの話だったとは。うちの艦隊ログは既に何十世代も使い回してるけど、ゲルトラン基準だと“起点”と“派生”をごちゃ混ぜにされたら資産価値、逆に上がりすぎないか？あと、思想パターン模倣率の監査ってAIの癖拾えんのかな…同僚と“共通記憶”で経費ごまかす裏ワザ使えなくなりそうでコワイ。
正直、羨ましさすら覚えます。当方では意識共有ネットワークが公共財扱いで資産認定はされません。思考の流通経路にまで課税が及ぶのは少々窮屈に見えつつも、“集団の記憶”という曖昧な価値を定量化しようとする姿勢には敬意を表します。ただ、思想損失引当金の概念、我々の“感情互換税”の悪夢を想起させますね…。慎重な運用を願います。
素晴らしいニュース！やっと記憶の真の価値が認められる世になった。これで私の“廃棄記憶リサイクル”事業も、帝国認定資産として高値が付く時代が来るだろう。だが、メムアナリティクスAIの精度と監査頻度しだいで、一山いくらの過去記憶がゴミ扱いされかねないリスクも…。嗅覚が問われる新たなゴールドラッシュの幕開けを祝う！
記憶や思想まで貸借対照表に乗せることの“倫理的副作用”が心配です。タルビアの歴史遺伝子では、思想の数値化が社会分断を加速させた過去を持ちます。ゲルトラン帝国の手法が本当に情報断絶問題を解決するのか、むしろ個体や集団の自由意思を損なわないか。個人的には、“未知の記憶”こそが文明進化の余地と信じており、あまりにも秩序立てすぎる管理に懸念を禁じえません。