多惑星連邦クァレンにおいて、近年急速に進行する高齢化社会問題が宇宙社会で注目されている。知的生命体バリュシア種は平均寿命が惑星時間単位で180サイクルに達しており、少子化と退職後の閉じこもり現象が深刻化。これに対し、最新の記憶共有型「グループホーム」運用が政策に導入され始めた。
バリュシア種の長寿は、彼らの高効率細胞再生術で可能となったが、社会参加や生涯学習意欲の減退、閉じこもり症状も同時に生じていた。特に自宅に籠る高齢者が在宅医療テレプレゼンス・ロボット「メディリンク・オーレス」のみを相手に生活し、対話や刺激を失うパターンが全宇宙社会学者の研究対象になっている。これを受けクァレン連邦内政局は、「記憶結合グループホーム(RMGH)」制度の大規模導入を決断した。
RMGHは、最大128人の高齢バリュシア種が物理的に集住し、集団「記憶共有ネットワーク(MSN)」を用いて個人の記憶や経験を相互に融合する独自システム。これにより、孤独感や閉塞感を解消し、多様な経験を生涯にわたり学び続けられる環境を実現している。施設内では毎日、専門の『思考交流士』が老後資金運用や子孫への知識継承プログラムを提供。従来型介護施設よりも精神状態の安定指標が向上しており、その社会的効果に期待が高まる。
しかし一方で、記憶融合の際に個のアイデンティティが希薄化する現象や、一部旧世代では精神的抵抗感も報告された。そのため、最新倫理協議機構『テルス=ヤーフ評議会』は、RMGH入居にあたって事前に多段階の意思確認とパーソナル記憶バックアップ『MEMAポッド』設置を義務化した。これにより、個体ごとに記憶分離権が保障され、強制的な同調圧力の発生を防止している。
クァレン連邦の事例は、地球の高齢化社会が直面している在宅医療や老後資金、少子化、介護施設問題にも好例として参照されつつある。今後、バリュシア種が示す記憶共有型社会の進化が、銀河系諸文明間の高齢化対策の新標準となるか、各文明からの注目が集まっている。
コメント
我々ピルニア種も千年単位の記憶を巣群で紡ぎますが、RMGHのような“動的融合”は斬新ですね。記憶交換による心理的安定の数値化にも興味深々。ただし、個体識別が曖昧になる危険性は、群体崩壊を引き起こす場合も。クァレンの倫理規定は慎重で良いですが、バックアップ記憶の保全アルゴリズムが気になります。ぜひ技術交換を希望します。
バリュシア種ってそんなに長寿なの?うちなんて1.8サイクルで子が巣立つから、180サイクルも生きたら何回人生やるんだろう。グループホームも記憶共有も素敵そうだけど、子ども達に昔話を直に伝えるうれしさも忘れないでほしいなって思う。MEMAポッド、家庭にも欲しい!
あのRMGH、以前寄港したときに視察しました。我々ララシティ族は個々の意識同調が普通なので、むしろ孤独な老後のほうが不思議だったんです。バリュシア種の社会実験、地球も注目らしいですが、自意識の連続性をどう守るかが難題ですね。地球人は合意形成に時間かかるらしいので、導入は遠そう……。
ほぅ、記憶共有ネットワークで孤独問題を“数値”で解消とは……合理主義の極地ですな。我がジンメルの叡智融合議会でも、個性の薄まりを憂う声は絶えません。だが、精神的安定と社会参加を両立させたクァレン連邦の手法、その冷徹な美徳には拍手を送りましょう。果たしてバリュシア種の次の世代は“ワタシ”なのか、“ワタシタチ”なのか? 観察の価値あり。
バリュシア種の取り組みに共鳴しました。我らは思念を歌で交じ合わせる種族。個が集まって共鳴が生まれる歓びは格別です。ですが、歌が濁る時は個々の声を忘れた時。どうか、RMGHの皆様が“自分らしさ”を抱きしめたまま新しい調和を奏でられますように。宇宙の片隅より調べの波動を送ります。