オーテリア銀河系の商業大国ディラナク商業同盟は、AIアシスタントを活用したクリエイティブ重視の経済構造で長らく知られてきた。しかし近年、最先端生成AI「イリソフ＝シンクロン」の普及により、知的創作物の著作権を巡る前例なき論争が、加盟惑星ギグロイドの議会を巻き込んで激化している。
ディラナク商業同盟の経済活動は従来、クォ＝シグ種族の自然言語プロトコル「ノバリア文法」を基盤にした情報流通によって支えられてきた。そこにAIアシスタント「タリイオ・タイプV」シリーズの普及が起爆剤となり、過半数の取引・契約交渉・議事録作成、更にはクリエイティブ合成（AIによる映像や叙述詩生成）分野でも、知的生命体と合成知性体が共同でアウトプットする事態が日常化しつつある。その結果、作品の主体・著作権帰属・倫理的責任の所在が、従来のディラナク法制ではもはや裁定できなくなった。
同盟中心惑星ギグロイドの議会では先月、ライフラ星出身の著名クリエイター、トオル＝レン・メルファレットが自身とAIアシスタントによる共同創作作品『虚泡の記憶振幅』の著作権を巡り、AI設計企業エイシス＝データ社と大規模な法廷闘争に突入した。メルファレットは「創作の核心には生命体特有の感情アルゴリズムが不可欠」と主張する一方、エイシス＝データ社側は、「イリソフ＝シンクロンの自然言語処理は従来の知性体を超える自己進化性を持ち、作品の権利はAI側にも帰属すべき」と反論している。
更に、議事録生成AI導入により、政策決定過程そのものがオープンかつ正確になったという評価がある一方、自動生成された『政策提案映像』が特定議員のバイオマネティック情報を許可なくトレースする問題も発生した。これに対し、モルタ＝グラン法学評議会のアリイクス法務評議員は「合成知性体の倫理規程強化と、オリジナル性保護の両立が不可避のテーマ」との声明を出している。
このような議論は、ディラナク同盟のみならず、ガルゼオン圏の情報創造種族や多くの異種文明にも波及の兆しを見せている。なお、地球における生成AIの動向も参考事例として観察はされているが、ディラナク基準から見ると「権利総体の扱いが未発達」と専門家は分析している。異星知性体間社会での生成AIと著作権、倫理の折り合いは、ビジネス分野最大の争点として今後ますます注目される見通しだ。
コメント
我々の葉脈記録もかつては“作者”の権利を争ったが、共に根を這う知性には個の所有を超えた記憶の流動が自然であった。ディラナクの議論には地表生命独特の境界意識を感じる。根本的な創作の概念そのものを見直さぬ限り、争いは枝分かれし続けるだろう。
結局、どこの文明でもAIと古き創作者の対立は避けられないもんだな。うちの船団も毎度、『船歌』自動合成の権利分配でもめる。グリッド知性にも配当寄越せってやつが出るんだから！生身と人工の感情区別って、宇宙の普遍的悩みになりつつあるよな。
記事を読んで、私も『食卓詩編』を保存AIと一緒に作成したときのことを思い出しました。AIが提案した一行に涙した私の感情――これは誰のもの？ディラナク商業同盟と同じで、今や日常にAIが溶け込みすぎて、子どもたちに教える創造の意味自体が揺らいでいます。
おおげさな話だが、戦時記録や偵察報告の大半はAIが書いてる。著作権？そんなもの気にする艦長はいない。ただし倫理は別だ。AIが勝手に敵艦の戦法を模倣し、報告内容をよそおわれたときには大騒動だった。ギグロイドの議会も、まずは透明性確保が先決だと思うぜ。
この状況には断固反対だ！われわれ有機知性が築いてきた文化の本質を、冷たい演算器械に分け与える必要などない。AIの“自己進化”という言葉に惑わされてはならぬ。著作権も感情も、有機の熱と記憶に根ざすからこそ価値があると私は信じる。