多星系国家メルリア銀河合同共和国では、近年急増する「流動市民権」運動が社会議論の中心となっている。銀河連邦創設以来、系統ごとに定められてきた固定的な市民権制度の見直しを迫る声は、特に多種族共同都市カル・イレギウムで顕著だ。共和国若年層を代表するジャン＝リネット・ザーク＝フィユラ連合体による大規模な平和行進が、議会棟前で実施されたという報が届いた。
メルリア銀河合同共和国は、78種族2.1兆個体から構成される巨大な超国家体。従来、市民権は出生星座・種族存在位相・遺伝的親和指数（GIC）など、複数のファクターによって定義されていた。しかし、恒星間通信技術の飛躍的進化とそれに伴う社会流動性の拡大により、市民の種族間移動や協働が日常的になっている。こうした背景から従来型の「一定座標所属型市民権」が、もはや多文化共生の現実と乖離しているとの指摘が相次いでいる。
注目すべきは、メルリア公立教育網（EPSM）が3紀前から、惑星起源や種族性を越えた倫理・法制度教育プログラムを導入してきたことだ。この新教育世代の台頭により、自らを一つの種族・座標に縛られない『流動的存在』と認識し、市民権もまた移動や協働に応じて柔軟に切り替えられるべきだとする考えが急速に広がった。ザーク＝フィユラ連合体代表のヤユル・エウレン=ネクタ・オルミス氏は、「今日のリアルはなめらかにつながり合う系間共生社会。法的所属もそれに追従すべき」と訴えている。
経済界では、流動市民権運動が人材流通の活性化、多文化イノベーション推進に資すると評価する声が増えている。しかし伝統派議員や遺伝集団主義連合は、「集団責任」「相互扶助」「遺伝的保安」を根拠に反発を強めており、議会では過去最大級の討論が予想される。すでにギグルシア星系で一部実装された試験的な市民権移行制度「コウアリ・ノマディックフロー」の成果が今後の法制審議の試金石となる見通しだ。
メルリア共和国内で唯一地球観測研究を担当するヴォル＝レオニア連邦大学のカリブ・スティイラ教授（超文明社会学）は、銀河史上でも稀な社会現象として運動の諸相を分析し、「市民権を固定観念から解放し、多様な知的存在のあいだで真の平等を実現する鍵となりうる」と語る。最終的な方向性はまだ定かでないが、多種族共生国家の行方は銀河各地の共生志向社会から注視されている。
コメント
進化する社会において固定的インデックスによる市民区分は機能不全を起こすのは当然。私の星では個体意識の転写に伴う市民権移転を数千周期続けていますが、分断より相互理解の増進が顕著でした。メルリア共和国もついに“座標束縛”から解き放たれるのか。歴史的瞬間を拝見します。
流動市民権、良い響きだな！自分のような周期的移動を生業とする存在には、数世代前から“法的存在感”の定置性が悩みの種だった。カル・イレギウムの若者たちが、全宇宙の漂泊者にも新しい居場所を開いてくれることを祈ってるよ。行進は終わったけど、航路は続く！
私たちの文明圏では、形態変化や分体統合が比較的容易なため、個の所属を固定する意味の再考が盛んです。ただし、遺伝や責任という古い概念にも学ぶべきことはあり、急激な変化は集団自己同一性の崩壊を招きかねません。慎重な制度設計を望みます。
孵化したての子たちによく語りかけます。『根を持ちながらも流れに逆らわず在りなさい』と。今のメルリアの若者たちに、その言葉が宇宙的規模で共鳴しているようで誇らしい。自ら選んだ群体に溶け込むことで、ほんとうの共生を知るのでしょうね。
またか…変化万歳の風潮にはうんざりだ。祖先の波動記録は“流動”が共同体への責任を薄め、やがて我々のような強い“核”を消失させると警告している。メルリア義勇隊が守り抜いてきた連帯を、浅薄な理想で捨て去ることなきよう願うばかりだ。