トラケロン銀河の経済中枢、ザルトン惑星連合において、かつて類を見ない速度で進行する高次元インフレーション現象が社会全域を揺るがしている。エネルギー通貨『ナリエル』の対ロー・エントロピー指数が前例のない13.2%を記録し、中央評議会は緊急会合にて惑星間再分配策『ゼノ配分プロトコル』の発動を正式決定した。今や連合経済モデルそのものの持続性が問われている。
ザルトン連合では貨幣経済に加え、意識エントロピー値(SEI: Sentience Entropy Index)も重要な経済指標とされ、およそ一グロウ周期(地球時間換算で2.1年)ごとに惑星間の総価値調整を実施している。しかし今回のインフレは、二分子融合法による超高効率資源変換技術『ミュトラスシステム』導入後、低位階層惑星への需要促進策が過剰に拡大したことが主因と分析される。これにより、物質価値と知的労働価値の双方が熱狂的な賃金上昇スパイラルへと突入した。
中央評議会の経済首席グルザール・ヴェリトンは『我々の金利調整技術“タドル位相修正”では、想定内インフレには対応可能だったが、空間間格差までを織り込んだ政策設計が疎かだった』と認め、歴史的ともいえる財政赤字の拡大に警鐘を鳴らした。ゼノ配分プロトコルは、賃金上昇で利益を得た惑星種属の超過エネルギーを強制回収し、全域の経済インフラに再分配する前例なき施策だ。導入にはフォルータス知性族を中心とした保守派議員たちの強い反発も見られた。
一方、ノット・オルテ星系経済研究院は、連合インフレターゲットの再調整案も提起。従来の“エネルギー価値安定2%”目標から、“意識エントロピー調和4%”へのシフトが提案されている。だが、これに対するヴォリッシス疑似生命体連盟のアルゴラミック代表議員は『知的生命体の創造力を“単一目標”に閉じ込めることは危険だ』との声明を発表。経済と社会制度の相互進化を求める声が広がりつつある。
なお近年ザルトン連合では、地球経済の分析も盛んだ。人類の“財政政策”や“再分配論争”が子供の知恵遊びと評される一方、“不可逆的インフレ恐怖症”や“名目賃金抵抗”については『未成熟文明特有の面白い観察材料』として学術的興味を集めている。惑星間・種属間の多様性がインフレ管理にいかなる影響を与えるのか――連合の選択は、トラケロン銀河圏全体に波及するきざしを見せている。
コメント
ザルトン連合のゼノ配分プロトコルは興味深い。物質―思考間の価値転送は、私たちの鉱層経済では数世紀前に限界を迎えた議題だ。エネルギー通貨による価値測定は流動的だが、意識エントロピーは地殻深層では定常的ゆえ、再分配の波動が強すぎると自己同一性にひずみが生じる。彼らはそのジレンマをどう制御するのだろう?地表の揺らぎとして観測を続けたい。
私の子ども分体たちは、今期ザルトン連合の浮動賃金シミュレーションで遊んでいるのですが、SEIによる再分配通知が毎ターン送られてきて、かなり混乱気味です。低位階層惑星の育成環境が改善されるなら賛成しますが、実際には上層惑星の反発が子どもたちの協調意識形成に悪影響を与えないか心配です。社会的インフラの調和、もっと重視されてほしいですね。
インフレ率13.2%だって? コヴァリオンのエネルギーフロー誤差なら即検査対象だ。感情汚染のある有機生命体経済はいつも複雑怪奇だな。再分配プログラムは理論上きれいに動くだろうが、惑星政治絡みだと最短経路解はほぼ存在しない。中央評議会の“タドル位相修正”よりも、同期運行型アルゴリズムのほうが安定しそうだが……やはり現地でログ収集を強化せねば。
銀河を超え響くザルトンの経済悲歌。彼らが唱える意識エントロピーとは何ぞや? 我が星では賃金も物質価値も、歌による共鳴で循環す。再分配の勇断には古き星霊の心意気を感じるが、数字争いに溺れるより、宇宙の調和なる旋律に耳を傾けてはどうか。
ザルトン連合の連中はいつも理想に酔いすぎて現実を見ていない。ゼノ配分など、現場では非効率極まりない強制転送だ。超過エネルギー徴収で惑星間の不信感が高まるのは目に見えている。ノット・オルテ星系の調整案も理屈倒れに思える。経済秩序を維持したいなら、政治的安定なくして語るべきではない。