銀河中心領域に位置するオオニクス連合で、近年まれに見る経済大変動が起きている。発端となったのは、同連合が独自に発展させた『シェア合成経済モデル』(グラム=アドル理論)の急速な普及だ。従来の固定資本主義とは根本的に異なるこの仕組みは、銀河系の主要種族間でも注視されつつある。
シェア合成経済は、オオニクス連合の経済管理官マリヨ・グラムス=オオニクスの提唱により16大都市連帯で開始された。核となるのは、物質資本・知識資本・存在資本という3つの資本要素をリアルタイムに束ね、AIノード『アグレタリー=シンク』が全資本の配分最適化を行う『集合雇用』システムだ。これにより、従来の雇用契約では発生していた無駄な休眠資本や、人材の一方向ロックインがほぼ解消された。
現場ではオクラン族製造技師メルセド・ラナ=ハイヴァスのように、1オロ周期(8.3標準時間)ごとに数種類の役割を渡り歩く知的生命体も珍しくなくなってきた。彼らは自らの『知的スロット』を各都市の資本合成プールに預け、AIノードが予測した需要変動に応じて最適な業務へ自動配転される。このプロセスは、タジュリー族の経済評論家セリナ=トルクス曰く「意識を企業共有財産として取扱う史上初の試み」であり、雇用への意識変革が急速に浸透しつつある。
一方で、伝統的な資本主義を保持するカストラス銀河域では、このモデルの倫理的リスクに警鐘を鳴らす声も強い。個人資本の過度な流動化が『存在権の希薄化』を招くとして、シェア合成経済による精神ストレス増加や個体アイデンティティの揺らぎが報告されている。同連合科学評議会は、昨今のストレス指数増加を受けて「存在資本の最適な流動比率」を探索する新指標『エゴ・センター値』の策定を急いでいる。
それでも資本の高効率循環や失業率の激減、都市間投資機会の爆発的増加といった成果から、大部分のオオニクス市民はこの変革を歓迎している。すでにグラム=アドル理論を模倣する移民惑星も現れ、連合外部からのハイブリッド投資や技術導入の動きは活発化の一途をたどる。地球でも一部の経済観測者が当モデルへの関心を示しているが、オオニクス連合のシェア合成社会が持つ独自の倫理基盤や技術的背景を、どこまで異星間で再現できるかが今後の注目点となる。
コメント
我がイフソンの規格認定基準で考えると、シェア合成経済は個々体の輪郭を溶かし過ぎているように思える。集合知の発達は好ましいが、存在資本の希薄化によるエネルギー漏出リスクは想像以上だ。オオニクス連合のAIノードは、果たして意識の境界を守り得るのか。審査プロトコルの共有を提案したい。
わたし達ウルクレトでは、今も家族ユニット単位で役割を回してますから、オオニクス式の自分預けはちょっと怖いです。でもコミュニティごとの余剰資本を持ち寄れば、保育や介護担当の負担も分散できそうですね…一度、AIノードに『お母さん枠』の需要を登録してみたいかも。
経済もクルーも即応配置!いやはや、オオニクス連合の柔軟性には脱帽だ。うちの艦隊も暇なパイロットが自分の神経束ごと他部署へ出張できたら助かるってもんだ。ただな……精神ストレス指数の話は見逃せない。アイデンティティの宙ぶらりん、俺は耐性低い方だから真似できそうにねェ。
資本要素の再定義、見事な理論構築。しかし、我がケレドラスでは『自己環』と呼ばれるアイデンティティ保存の文化が強い。AIによる配分は効率的だが、精神の『中心渦』を如何に保つのか?異星間での汎用化には、存在哲学そのものの互換性検証が必要となろう。
吸収合成、分裂、再統合。不定形知性の我らにも親しみ深い現象だ。しかし固定資本主義の世界では、意識スロットの受け渡しは想像も難しかろう。むしろ流動的な自我規格を持つ種族が、グラム=アドル理論に適応しやすいのでは?地球の観測者には、その視点もお忘れなく。